日独・防衛費増額の違い
ロシアのウクライナ侵攻という世界の座標軸を覆す出来事が起きて以来、欧州・日本で防衛についての関心が高まっている。日本政府は昨年12月、米国の要請に応えて防衛予算が国内総生産に占める比率を、現在の約1%から2%に引き上げる方針を打ち出した。
具体的には、2023~27年度の防衛予算を従来の計画の1.5倍に増やして、43兆円とする。27年度以降は毎年4兆円を防衛予算に充てる。これまで想定されていなかった、敵のミサイル基地などを攻撃する「反撃能力」を持つことも計画されている。政府は4兆円のうち、1兆円を法人税などの増税で賄う予定だ。
ドイツのショルツ首相も、昨年2月に防衛政策を大転換して、防衛予算を大幅に増やすことを決めた。首相は連邦議会での演説で「われわれはこれまで以上に軍備に投資し、兵器を近代化しなくてはならない」と述べ、1000億ユーロ(14兆円、1ユーロ=140円換算)の特別資産を計上すると発表した。これは、昨年の防衛予算のほぼ2倍だ。
ドイツの計画には、日本政府の防衛予算増額案と異なる点がある。それは、ショルツ首相が軍備増強のための増税は行わないと明言した点だ。彼は「特別資産は、連邦予算の枠外に設置され、国債で賄われる」と説明した。ショルツ首相は、軍備増強のための増税に国民や企業が反発することを知っている。
ドイツは14年~19年まで、G7で唯一財政黒字を出した。公的債務残高の対GDP比率は70.9%と、日本(262.5%)よりも大幅に低い。ドイツは国債市場で容易に金を借りられる。このため、ショルツ首相は「軍備強化を国債でカバーできる」と判断した。
さらに、ドイツは防衛予算増額のために憲法を改正した。その理由は、憲法の「債務ブレーキ」という規定により、連邦政府はGDPの0.35%を超える新規債務を禁じられているからだ。政府が1000億ユーロの国債を発行すると、この規定に抵触する。そこで、政府は後に違憲訴訟が起きることを防ぐために、「特別資産には債務ブレーキは適用されない」という例外規定を憲法に付け加えた。憲法改正案は、昨年6月に連邦議会で可決された。
もしもドイツ政府が「増税を行う」と言っていたら、これほどすんなりと議員たちが了承したとは思えない。日本政府の案は、今後抵抗にあわずに実行されるのだろうか。日本国民はこの案に同意しているのだろうか。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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