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なぜW社はロシアから撤退したのか(上)

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 ロシアとのエネルギー事業にこだわり続けた、ドイツ最後の大手エネルギー企業が白旗を掲げた。
 ドイツ最大の化学メーカーBASFの子会社の石油・ガス企業ヴィンタースハルDEA(WD)は1月17日、「ロシアから完全に撤退する」と発表した。1894年創業の同社はドイツ最大の石油・ガス会社の一つで、2019年の売上高は59億ユーロ(8260億円、1ユーロ=140円換算)に達していた。
 WDは、ドイツ企業の中でロシアとの結び付きが最も強い会社の一つだった。同社は1992年以来、ロシア企業と複数の合弁企業を創設し、シベリアなどでガスや石油の掘削・調達を行ってきた。そのうちの一つで、2009年にガス調達が始まったユシュノ・ルスコエ・ガス田では、年間生産量が250億立方メートルに達した。
 WDの親会社BASFは、化学物質の製造に大量のガスを必要とする。BASFはドイツ最大のガス供給企業だったルールガスへの依存度を減らすために、ロシアから子会社WDを通じてガスを直接調達することを考えた。BASFはシベリアのガス田の権益を獲得するために、15年にWDが所有していたドイツ最大の地下ガス貯蔵設備レーデンなどを、ロシアの国営ガス企業ガスプロムのドイツ子会社に売却した。ドイツにとって最も重要なガス備蓄施設がロシアの手に渡った。それほどまでにBASF・WDとロシアのエネルギー業界の結び付きは密接だった。この結果、BASFがルートヴィヒスハーフェンに持つ本社工場で使用されるガスの約50%はロシア産のガスだった。
 一方、ガスプロムは海底パイプライン・ノルドストリーム1によってドイツへのガス供給をコントロールするだけでなく、BASF・WDを通じてドイツのガス備蓄量の5分の1を支配した。その意味でWDは、独ロ間のエネルギー貿易の中枢に立つ企業だった。
 だが、ロシアのウクライナ侵攻は全てを変えた。WDのマリオ・メーレン社長はロシアから撤退する理由について、「わが社のロシア事業はもはや継続不可能になった。ロシアのウクライナ侵略戦争は、わが社が重視する価値観に矛盾する。この戦争は、ロシアと欧州の協力関係を破壊した。過去数カ月間にロシア政府は西側企業の同国での活動にさまざまな制限を加え、合弁企業はこれまで通りの活動を続けることができなくなった。われわれが合弁企業に持っていた権益は、事実上ロシア政府に没収された」と説明した。社長の言葉には、商売相手の仕打ちに対する悔しさがにじんでいる。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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