ドイツが脱原子力を達成(下)
ドイツが4月15日に最後の3基の原子炉を廃止した後も、原子力エネルギーをめぐる議論は続いている。ドイツ商工会議所(DIHK)のアドリアン会頭は「私は、脱原子力後に電力の安定供給が確保されるかどうかについて、疑問を持っている。本来は、エネルギー不足や価格高騰を防ぐために、使用可能な全ての電源を使うべきだ」と述べた。
連立与党内の意見も分かれている。緑の党とSPDは脱原子力に賛成しているが、財界寄りの自由民主党(FDP)は、原子力エネルギーという選択肢を放棄するべきではないと主張してきた。FDPのクビツキ副党首は「脱原子力は大きな誤りだ。外国ではドイツのエネルギー政策は世界で最も愚かだと批判されており、われわれはこの汚名を返上しなくてはならない」と語った。
野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)も原子力推進派だ。CDUのリンネマン副党首は「エネルギー供給に不安が残っている時期に、使える発電設備を廃止して解体するのはナンセンスだ」と発言した。バイエルン州政府のゼーダー首相(CSU)は4月16日、「われわれは原子力についての議論を将来も続ける。エネルギー供給の不安が続く限り、あらゆる電源を使うべきだ。将来は核融合についての研究も進めたい」と語っている。
欧州では脱原子力国は少数派だ。ドイツ、イタリア、オーストリアなどを除くと、大半の国が脱炭素化のために再エネとともに原子力を拡大する政策を取っている。ベルギーは2025年までに脱原子力を予定していたが、ロシアのウクライナ侵攻後、路線を変更し35年まで運転を続けることを決めた。英仏、一部の東欧諸国、スカンジナビア諸国は、原子力が電源構成に占める比率を拡大する方針だ。ポーランドは現在原子炉を持っていないが、30年代に最初の原子炉を稼働させる。欧州委員会も、再エネだけではなく原子力を重視している。欧州委員会は、原子力発電が一定の条件を満たす場合、気候変動を軽減させるグリーンな経済活動のリスト「EUタクソノミー」に記載することを決めた。こういった流れを考えると、将来の総選挙でCDU・CSUとFDPが勝利し連立政権を構成した場合、脱原子力政策に変更を加える可能性はゼロではない。原子力をめぐる議論が、ドイツの脱原子力完遂後も続くことは確実だ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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