Jアラートと危機管理(上)
私は3月11日から2カ月間、日本に滞在した。この間、「日本の危機管理は大丈夫だろうか」と思わせる体験をした。
私は4月13日の朝8時ごろ、函館のホテルで朝食をとっていた。突然、私の携帯電話と周囲の人々の携帯電話が一斉に鳴り始めた。私は「大地震が来るのか」と身構えた。携帯電話の画面を見ると、「北朝鮮のミサイルが北海道周辺に落下する可能性がある」という政府の警告(Jアラート)だった。
しかし、ホテルの従業員は、宿泊客に地下室などへの退避を呼び掛けなかった。あたりを見回すと、人々はのんびりと朝ご飯を食べていた。従業員による避難場所への誘導やアナウンスなどは一切なかった。
幸い、Jアラートはすぐに訂正された。政府は「北海道周辺に着弾する」という情報を訂正した。日本政府はこの日、北朝鮮のミサイルがどこに落ちたのかを特定することはできなかった。一説によると、このミサイルは途中で三つの部分に分かれた。防衛省の観測システムは、そのうちの一つの部分の軌道が北海道周辺に落ちると推定したため、Jアラートが発令されたようだ。
私は「ミサイル発射のような緊急事態が起きても、日本政府は、軍事偵察衛星で北朝鮮の動向を常に監視している米国や韓国から情報を受け取れないのだろうか」と不思議に思った。
この朝のホテルの対応は、適切だったのだろうか。万一、北朝鮮のミサイルがホテルに着弾していたら、地下シェルターに退避していない宿泊客の間には多数の死傷者が出たはずだ。このホテルは、そういった事態を全く考えていなかったようだ。
この体験を知り合いに話したら、その人は「Jアラートが発令されても、実際にミサイルが日本に着弾したことはありません。政府は万一を考えて警報を出すので、空振りが多いのです。このため、Jアラートが発令されても、人々はあまり真剣に考えていないのです。だから、熊谷さんが泊まっていたホテルの対応は正しかったのです」と言った。へたに従業員が避難を勧告すると、かえって宿泊客が不安を抱いてパニックになる危険があるというのだ。
北海道で宿泊施設を経営しているある女性は「Jアラートが発令されても、われわれホテル経営者はどう行動するべきかを政府や県庁から指示されていないので、動きようがないのです」と語った。多くの宿泊施設では、ミサイル攻撃の際に宿泊客を避難させる地下シェルターもないに違いない。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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