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新ヨーロッパ通信

Jアラートと危機管理(下)

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 私は4月13日の朝8時ごろ、函館のホテルで朝食を取っていた時、「北朝鮮のミサイルが北海道周辺に落下する可能性がある」という政府のJアラートを受け取った。
 しかし、ホテルの従業員は、宿泊客に地下室などへの退避を呼び掛けなかった。あたりを見回すと、人々はのんびりと朝ご飯を食べていた。従業員による避難場所への誘導やアナウンスなどは一切なかった。幸い、政府はしばらくして、「北海道周辺に落下する」という予測を撤回した。
 私はこの時の朝食ホールの様子を見て、「ホテル経営者も市民も、『Jアラートは今回も空振りに終わる』と高をくくっているので、政府からの警報を受けても反応しないのだ」という印象を持った。
 しかし、「ある出来事が過去に起きなかったから、将来も起きない」と判断するのは、正しい行動の仕方ではない。2011年に起きた巨大地震と津波が引き金になった原子炉事故は、そのことをわれわれに教えている。保険の世界でも、将来の大災害の損害額を予想する際に、過去の経験値だけではなく、万一起こった場合の最大損害額(エクスポージャー)も加味する必要があるというのは常識である。
 函館にいる時、私はふとイスラエル人たちの対応を思い出した。私の知り合いのドイツ人は、テルアビブ出張中にホテルで熟睡していた。すると、「ガザ地区からミサイルが発射された」という警報が鳴り響き、宿泊客は全員地下のシェルターに避難させられた。多くの人はパジャマ姿だった。
 ガザ地区から発射されるミサイルは性能や照準の精度が低い。イスラエル軍は対空ミサイル「アイアン・ドーム」でガザ地区からのミサイルの約90%を空中で撃破している。しかし、10%は打ち漏らして市街地などに落下する。ミサイルがイスラエルの団地などに着弾した場合、実際に死傷者が出ている。私はイスラエルに11回行き、彼らが危機管理については手を抜かないことを学んだ。
 ある人は「建国以来戦争やテロを経験しているイスラエルと、平和な島国日本を比較するべきではない」と言った。確かに、周囲を敵に囲まれたイスラエルは、ほぼ恒常的に「非常事態」を経験しており、市民の危機に対する敏感さは他の国とは比べられないほど高い。
 それでも、日本政府が多額の資金を使って運用しているJアラートが発令されても、多くの人が「また何も起きないだろう」と考えて適切な対応を取らないというのは、望ましい状態だろうか?
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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