ウクライナ戦争で兵器産業に「特需」
欧州は、本当に変わった。例えば、今まで日陰者だった兵器産業が、一躍「花形産業」として脚光を浴びるようになった。昨年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、ドイツの兵器産業は空前の活況を迎えている。
例えば、装甲車、大砲、砲弾のメーカー・ラインメタル社では、2022年の売上高が前年比で13%増えて64億1000万ユーロ(9615億円、1ユーロ=150円換算、以下同じ)に達した。ウクライナ戦争の影響で、軍からの受注が急増したためである。22年の営業利益は前年比で27%増えて、7億5400万ユーロ(1131億円)に達した。同社は売上高が25年までに100億~110億ユーロ(1兆5000億円~1兆6500億円)に増えると予想している。
同社は70年代から、マルダー装甲歩兵戦闘車をドイツ連邦軍に納入してきた。この車両は、東西冷戦の時代には実戦で使われたことは一度もなかった。
この装甲車は老朽化したために、軍やラインメタル社の倉庫に死蔵されていたが、ウクライナ軍は武器不足を補うために、ドイツにマルダーの供与を要請した。このため、ラインメタル社は急遽、お蔵入りしていたマルダーを整備して、ウクライナに輸出した。さらにラインメタル社は、ドイツのレオパルド2型戦車の120ミリ砲、射撃管制装置やゲパルト対空戦車の機関砲弾も生産している。
ドイツ政府は、これまでにマルダー40両、レオパルド2型18両、自走重榴弾砲14両をウクライナに送った他、150ミリ砲弾を2万3500発供与した。だが、北大西洋条約機構(NATO)関係者によると、ウクライナ軍が1日にロシア軍に対して発射する砲弾の数は5000~1万発に上り、供給が追い付かない。
このため、ラインメタル社も砲弾を大量生産している。北ドイツのウンターリュスにある同社最大の工場では現在2400人が働いているが、今年末までに工員数を200人増やす。生産能力を高めるために、5000万ユーロ(75億円)を投じて工場を拡張する。ラインメタル社の株価は、ウクライナ戦争が始まる直前の22年1月には1株当たり約90ユーロ(1万3500円)だったが、今年6月の時点では一時約3倍の270ユーロ(4万500円)に達した。株主は大喜びだろう。同社は今年3月、大企業が居並ぶ株価指数市場DAXに上場された。ウクライナ戦争が長期化の様相を見せる中、兵器産業の活況は当分の間続きそうだ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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