ビアガルテンの魅力
ミュンヘンの夏の風物詩は、ビアガルテンだ。木陰に置かれたベンチとテーブルで、小鳥の囀り(さえずり)を聞きながら、生ビールのジョッキを傾ける。気候変動の影響で、ドイツ南部では6月には真夏のような気温の日が多いので、人々はビアガルテンへ繰り出す。
町の西部のヒルシュガルテン(鹿の園)と呼ばれるビアガルテンでは、約8500人が座れる。ミュンヘンで最大のビアガルテンだ。おつまみは、カレーの粉がかかった焼きソーセージ(カリーヴルスト)や、塩辛い鶏の丸焼き、スペアリブ、フライドポテト、大きな輪のようなブレーツェンと呼ばれるパン、酢漬けのキャベツ、大根の薄切りなど素朴な食べ物である。ビアガルテンの数は、ミュンヘンだけで約1000カ所に上る。
中央駅に近いアウグスティーナー醸造所のビアガルテンや、英国庭園にある「中国の塔」と呼ばれるビアガルテンも有名だ。
ビアガルテンは友人や同僚との語らいの場、お客さんの接待の場、家族の夕食の場、年金生活者が時間をつぶす場所として使われている。お年寄りの中には、昼からジョッキを傾けている人もいる。
ビアガルテンの本場は、ドイツ南部のバイエルン州だ。この州では、どんな小さな町に行っても、地ビールを出すビアガルテンがある。ドイツはアジアよりも空気が乾いているので、真夏でも屋外に座っていられる他、ビールがとてもおいしい。
最初のビアガルテンは16世紀に開かれた。当時からの習慣で、ビアガルテンではビールなどの飲み物さえ買えば、自宅から食べ物を持ち込むことが許されている(ウエイターがいるレストランの区域を除く)。バイエルン王国を支配したビッテルスバッハ王家は、食べ物を買うお金にも事欠く低所得層でも、ビアガルテンを楽しめるように配慮したのだ。
ビアガルテンには、しばしばマロニエの木がたくさん植えられており、直射日光をさえぎってくれる。この理由は、まだ冷蔵庫がなかった時代に、冬の間に凍結した湖で切り出した氷の塊を地下の倉庫に貯蔵し、そこにビールのたるを置いて保存したからだ。夏の陽光で地下の貯蔵庫の温度が上がらないように、その上にマロニエの木を植えた。
まるでイタリアやギリシャにいるかのように、屋外で飲食を楽しむ。北ドイツでは味わえない、ドイツ南部ならではのライフスタイルである。出張や観光でミュンヘンへ行かれることがあれば、是非ビアガルテンに足を運んでみて下さい。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92