EU難民合意の光と影
6月9日、EU外相会合は、難民受け入れ規則を大幅に厳しくすることで合意した。EUはイタリアやギリシャなど、難民がEUに最初に到着する国に「難民審査センター」を設置して、3カ月以内にEU域内に亡命する資格があるかどうかを審査する。母国に政治的迫害がなく、亡命資格がないと判定された難民は、EU域内に到着する前に通過してきた安全な第三国へ強制送還される。
アフガニスタン、スーダン、イラクなどのように国内で内戦が起きていたり、政府が少数民族や反体制派を迫害したりしている国から逃げてきた外国人で、「EUに亡命する資格がある」と認定された難民は、EU加盟国に振り分けられる。配分の方法は、加盟国の人口、国内総生産、失業率などにしたがって決められる。EUは、毎年約3万人の難民を受け入れて、加盟国に振り分ける方針だ。ポーランドやハンガリーなどは難民受け入れに反対しているが、受け入れを拒否する国は、難民1人につき2万ユーロ(300万円、1ユーロ=150円換算)の罰金を払わなくてはならない。
2015年には、シリアなどから約100万人の難民がEUに殺到した。大半が、難民に対して比較的寛容で社会保障制度が整っているドイツへの亡命を希望した。難民が最初に到着するイタリアやギリシャは、「われわれの負担が年々増えているので、難民をEU加盟国に配分する制度を作ってほしい」と要求していた。これに対し、東欧諸国は難民受け入れを頑として拒絶していた。
だが、今回の合意については、ドイツの緑の党などリベラル勢力や人権団体から強い批判の声が上がっている。その理由は、難民申請を認められない外国人たちが3カ月にわたって刑務所のような設備に強制的に収容されるからだ。ドイツの緑の党は、「せめて子どもとともに逃げてきた家族らは難民審査センターに拘束するべきではない」と主張してきたが、同国の意見は他の加盟国によって受け入れられなかった。
これまでも、ギリシャなどの難民収容キャンプでは衛生状態や治安が悪く、収容されている外国人たちがテントに放火して抗議したこともある。
22年には、約96万2000人の外国人がEU加盟国に亡命を申請した。前年比で52%も増えた。アフリカの一部の国では、今後気候変動のために干ばつが悪化して農作物の収穫量が減り、欧州に移住する市民が増えるものと予想されている。EUを目指す外国人にとって、狭き門の入り口はますます狭くなっていく。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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