独政府が産業界脱炭素化に資金援助
化学プラントや製鉄所では、熱源として化石燃料が多く使われている。二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすには化石燃料を水素などで代替することが不可欠だが、多額の費用がかかる。
そこで、ドイツのハーベック経済気候保護大臣は6月5日、多額の助成金を投じて産業界の脱炭素化を支援する計画を発表した。
政府は助成対象企業として、化学、製鉄、セメント製造、製紙などエネルギー消費量が多い業種を挙げた。政府は企業との間で15年間にわたり差額決済契約(CfD)を結ぶ。さらに排出権取引市場でのCO2価格などに基づき、契約価格(CO2・1トン当たりの排出のための価格)を決める。政府は企業の脱炭素化費用のうち、契約価格を超える部分を負担する。逆に脱炭素化費用が契約価格よりも低くなったら、企業は政府に金を払う。
助成を受けられる企業の条件は、CO2の年間排出量が1万トン以上であること。さらに、製造工程で使われる電力が100%再生可能エネルギーからの電力であることが求められる。製造工程で使われる水素は、EUタクソノミーの基準を満たす水素に限られる。
政府は助成対象企業が使うべき水素の例として、再エネ電力から生産されるグリーン水素や、化石燃料由来だが生成時のCO2を地下に貯留するブルー水素を挙げている。この契約を結べば、企業は再エネからの電力や水素の価格が高騰しても、脱炭素化のための費用を同じ水準に保つことができる。
助成を受けられるかどうかは入札で決まる。政府は助成を希望する企業に対して、8月6日までに脱炭素化計画の提出を求めている。提出した企業は、今年末までに行われる入札に参加できる。参加企業は入札で、脱炭素化費用を提示する。提示した費用が最も低い企業から、政府とCfDを結ぶ権利を与えられる。
政府はこの計画に約500億ユーロ(7兆5000億円、1ユーロ=150円換算)の助成金を投じる。
ハーベック大臣はこの助成計画を、「米国のインフレ抑制法(IRA)に対するドイツの回答」と位置付けた。バイデン政権は昨年施行したIRAにより、経済グリーン化に貢献する企業に巨額の補助金を投じる。ドイツ産業連盟のアンケート調査によると、製造企業の6社に1社が、電力・天然ガス費用の高騰や人材不足による賃金水準の上昇を理由に、製造設備の少なくとも一部を国外へ移すことを決めた。今回の発表には、製造業の空洞化を防ごうとする政府の「本気度」が感じられる。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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