台湾と日本(中)
私は東アジアで一時働いて、台湾人がわれわれに接する態度と、中国人や韓国人がわれわれに接する態度の間に違いがあることに気付いた。一般的に言って、台湾人の対日感情は、中国や韓国に比べると「穏やか」なのである。この違いはどこからくるのだろうか。
まず、日本は台湾との間で領土紛争を抱えていない。中国とは尖閣諸島(釣魚島)、韓国とは竹島(独島)をめぐる対立がある。
日本は50年間にわたり台湾を植民地化したが、その際にこの地域の住民を巻き込んだ全面戦争は行っていない。これに対し、日本は中国を侵略して国民党軍および共産党の率いる軍隊と激しい戦闘を繰り広げた。いわゆる15年戦争の過程では、南京などで多くの市民や捕虜が虐殺された。中国政府は1998年に「日中戦争で中国人3500万人が死傷した」と発表している。
朝鮮半島は、1910年から1945年まで併合され日本の統治下に置かれた。だが、台湾と朝鮮半島の統治の仕方の間には違いがあった。台湾では、軍人だけではなく文官も総督に就任したのに対し、朝鮮半島では9人の総督全員が軍人だった。台湾には王朝はなかったが、朝鮮半島には王朝があった。日韓併合によりこの王朝は断絶させられた。朝鮮半島の人々の、日本統治に対する反発・抵抗は台湾よりもはるかに強かった。エルサレム・ヘブライ大学のダニー・オルバフ氏は姜尚中氏との対談で「朝鮮半島の統治は天皇直属、台湾の統治は内閣直属だった。朝鮮半島を統治した日本は、大日本帝国憲法が保障したわずかな権利も、民衆に与えなかった」と分析している。
もう一つの大きな要素は、中国本土から台湾に逃げてきた国民党政権の横暴さだった。1945年に日本軍が降伏すると、国民党軍が台湾に進駐した。1947年に台湾人と大陸からの中国人の間で起きた密輸たばこをめぐるトラブルをきっかけに暴動が発生。この2.28事件では、国民党軍の兵士たちが多数の台湾市民を虐殺した。多数の台湾人が投獄されて拷問を受けた。東アジア政治史の専門家の伊藤潔氏によると、この事件による犠牲者数は、約1カ月間で約2万8000人に上った。台湾人たちは政府によるこの弾圧を「白色テロ」と呼ぶ。その後、国民党政権は、1949年から38年間にわたり戒厳令を敷き、言論や集会の自由などを厳しく制限した。かつて「美麗島」と呼ばれた台湾は、血塗られた時代を経験した。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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