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新ヨーロッパ通信

台湾と日本(下)

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 第二次世界大戦後、日本に代わって台湾を統治するようになった国民党政権は、1947年の「2.28事件」で約2万8000人もの台湾人を殺害した。多くの台湾人が獄につながれ、38年間実施された世界最長の戒厳令により、言論の自由などを奪われた。
 つまり、多くの台湾人は、「日本統治時代も悪かったが、国民党政権による弾圧は輪をかけてひどかった」と感じた。彼らは、日本から独立して台湾人による主権国家を作る間もなく、次の支配者による圧制下に置かれた。
 通常、植民地化された国が独立する際には、宗主国に対する国民の憎しみが起爆剤になる。だが、台湾では、日本からの独立というプロセスを経ないまま、大陸からの国民党政権による軛(くびき)の下に置かれた。このため台湾では、日本に対する憎しみが比較的薄かった。
 私の知人の父親は、台湾生まれである。彼は宗主国日本に留学して医学を学び、そのまま日本に帰化したため、国民党政権下の暗黒時代を免れた。台湾に残った親戚たちは、「国民党が台湾に来ないで、日本統治時代が続いた方がよかった」と語ったという。今日の台湾人たちの対日感情には、こうした複雑な歴史が反映している。
 1978年から1988年まで総統だった蒋経国は、1987年に米国の圧力で戒厳令を解除した。1986年には、野党・民進党が結成される。蒋経国の死後、総統の座に就いた李登輝は、1996年に初めて総統選を実施した。台湾生まれの李登輝は国民党員だったが、米国で大学教育を受けており、民主化を急速に進めた。2000年には民進党の陳水扁が総統に選ばれ、初の政権交代を実現させた。2016年の総統選挙では、民進党の蔡英文が初の女性総統に選ばれた。今年は初めて女性の最高裁長官も誕生した。日本で女性が首相、最高裁長官の座に就いたことは一度もない。つまり、台湾は女性の社会進出において、日本よりも進んでいる。
 同国の経済発展も目覚ましい。デジタル立国台湾は、半導体産業で日本を追い抜いた。米国のガートナーなどの調査によると、22年のTSMC(台湾積體電路製造)の売上高は約759億ドル(10兆6260億円、1ドル=140円換算)で世界第1位だった。同社は、特に兵器などに使用される次世代半導体では圧倒的に強い。日本企業は、22年の半導体メーカー上位10社のランキングに1社も入っていない。「旧宗主国」は、さまざまな面で「旧植民地」の後塵を拝するようになった。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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