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ドイツは中国依存度を減らせるか?(下)

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 ドイツは過去のロシア政策の失敗の経験から、将来レアアース(希土)など重要原材料に関する中国への高い依存度を減らしていく。調達先の分散化により、サプライチェーンを強靭化する。
 太陽光発電設備、風力発電設備、BEV(電池だけを使う電動車)のための原材料や半製品について、ドイツは中国に大きく依存している。中国戦略文書は、「中国との経済関係を維持するものの、リスクを避けるために、戦略的に重要な分野での対中依存を減らす」と明記した。
 ショルツ政権は「再生可能エネルギーの拡大やBEVの普及に不可欠なレアアースなどの重要原材料や半製品、部品について、中国への依存度が危険な高さになっている」と指摘している。
 中国戦略文書は「われわれはこれらの分野での対中依存リスクの引き下げを優先的に行う。レアメタル、レアアース、重要な医薬品などの対中依存度を継続的に監視し、調達先の多角化やEU域内での調達量の引き上げによって、対中依存度を減らす」と明記した。現在EUは、戦略的に重要な原材料のリサイクル比率を引き上げるための法的な枠組みを整えつつある。これも中国への依存度を引き下げるための試みの一環だ。
 同時にドイツ政府は、対中戦略文書の中で、「中国に対して門戸を閉ざさない」という姿勢も明確に打ち出した。
 ドイツは中国を率直に批判しているが、人権問題などを理由に中国との関係を断絶するわけではない。例えば、中国戦略文書は「気候変動抑制のためのCO2削減や、将来のパンデミックの再発防止など、グローバルな問題では中国との協力を欠かすことはできない」と主張する。「われわれが目指すのは、関係を断絶するデカップリングではなく、依存リスクを減らすデリスキングだ」と述べている。ショルツ政権は、文書の中に硬軟両様の路線を織り込んだ。
 ただし、ドイツ政府は戦略文書の中で、対中依存度をどの程度下げるのか、どのようにして依存度を下げるのかについては、詳細を記していない。ショルツ政権は、「現在、多くのドイツの企業が中国に直接投資を行い、現地で製造活動を行っている。しかし、企業は(投資などに関する)決定を行う際には、地政学的リスクに十分配慮しなくてはならない」と述べるにとどめた。
 将来、ドイツ企業の経営者は、経営戦略の中で中国で事業を行うことの地政学的リスクを詳しく分析し、決定の中に反映させなくてはならない。彼らの責任は、より重くなったと言うべきだろう。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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