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ハマス大規模テロの衝撃

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 私はこれまで仕事のために11回イスラエルを訪れており、知人も多い。それだけに、10月7日にガザ地区のイスラム組織ハマスが、イスラエルに大規模な攻撃を実施したことにショックを受けた。
 10月7日は、シムハット・トーラ(律法感謝祭)というユダヤ教の祝日だった。この日の早朝、ハマスの戦闘員約1000人がガザ地区を囲むフェンスを爆破して、イスラエル南部の約20カ所の市町村、キブツ(共同農場)、イスラエル軍の拠点を襲撃した。ガザ地区との境界から約5キロしか離れていないレイム共同農場の近くでは音楽祭が開かれ、イスラエル人の若者たちが早朝からダンスを楽しんでいた。そこにAK47型自動小銃を持ったハマスの戦闘員たちが襲いかかり、逃げ惑う若者たちを次々に射殺した。車のドライブ・レコーダーには若者たちが撃ち殺される様子が録画されていた。イスラエル軍が数時間後に到着した時、現場には約260人の射殺体が残されていた。
 ハマスの戦闘員たちは、ガザ地区に近い共同農場も襲った。子どもを含む家族全員が射殺された家もあった。イスラエル軍が撮った現場写真は、身の毛がよだつ。
 ハマスはガザ地区から約3000発のロケット弾を発射した。その一部は、イスラエル南部だけでなくテルアビブにも着弾した。イスラエルはミサイル迎撃システム「アイアン・ドーム」を持っているが、多数のロケット弾を全て破壊することはできなかった。
 10月11日の時点で約1300人のイスラエル人が死亡し、約3000人が重軽傷を負った。大半が民間人である。イスラエルは1948年の建国以来、多くの戦争を経験してきたが、これほど多数の民間人が数日間の攻撃で死亡したのは初めてである。イスラエルのヘルツォーク大統領は「ホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺)以来、これほど多くのユダヤ市民が殺されたのは初めてだ」と衝撃をあらわにした。
 ハマスの戦闘員たちは、約130人のイスラエル人、外国人を誘拐してガザ地区に連行し、人質にした。外国人が含まれているのは、イスラエルが二重国籍を許しているためだ。1300人の死者の中には、22人の米国人も含まれている。
 一方、ガザ地区の保健省によると、イスラエルの爆撃によって、市民ら約2200人が死亡し、約8800人が負傷した。
 イスラエルのネタニヤフ首相は、11月9日に「この戦争は試練に満ちたものになり長期化する」と述べた。普段は余裕に満ちたネタニヤフ氏の顔には、苦悩と狼狽がはっきりと表れていた。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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