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新ヨーロッパ通信

人手不足でサービス低下

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 ドイツでは、ITや機械製造などの業種を中心に、技能を持つ労働者約40万人が不足している。労働市場・職業教育研究所(IAB)によると、2023年から35年までに、約700万人の勤労者が定年退職する。この国の労働力不足は、深刻化する一方だ。ミュンヘンのレストランの中には、ウェブサイトに「人手が足りないので、土・日の営業を取りやめます」と書いている店もある。
 先日、ミュンヘンからアムステルダムへ、ドイツの航空会社ルフトハンザの旅客機で飛ぼうとしたら、離陸が2時間も遅れた。その理由は、ターミナルから飛行機にトランクを運ぶ作業員が見つからなかったためだ。乗客のトランクは雨が降る中、長時間にわたり屋外に放置されていた。布のトランクには、内部まで雨水がぐっしょりしみ込んでいた。トランクの運搬のように高度な専門知識を必要としない業種でも、人手が足りないのだ。
 人手不足は、サービスの質の低下にもつながる。ある時、6人のグループで、ミュンヘンの中心街にあるラーツケラーという伝統的なドイツ料理店に行った。ウエイターがなかなか注文を取りに来てくれないので、私がウエイターを探しにいったが、従業員の数が少なく、見つからない。ドイツのレストランでは、テーブルの所にウエイターが勘定書きを持ってきて、精算する。3組の夫婦について、別々に精算を頼んだ。ところが、ウエイターがうまく計算できず、何度やっても計算が間違っている。最後は私がボールペンで筆算して、計算を手伝ってあげた。1枚の勘定書きを精算するまで、15分もかかった。
 しかも、このウエイターはドイツ語が不自由で、客に対して「ドゥー(お前)」としか言えない。これは普通、家族か親しい友人だけに使う言葉である。通常、ウエイターは客に対して「ズィー(あなた)」という丁寧な呼称を使う。30年前のドイツの居酒屋では、ベテランのウエイトレスが合計金額をあっという間に筆算したものだった。経営者としては、通常はレストランで働けないような人も雇わないと、店が回っていかないのだろう。客の立場からすると、サービスの水準の低下は著しい。
 元々ドイツは、日本に比べると「サービス砂漠」だが、人手不足の深刻化によって、サービスはさらに悪くなっているようだ。出張や観光でドイツに来られる方は、「この国のサービスの水準は低い」という心構えをして、カルチャー・ショックを受けないようにして下さい。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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