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新ヨーロッパ通信

イスラエル窮地

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 イスラエル政府の中では、ガザ侵攻作戦について意見の対立が起きている。国防大臣は、できるだけ早くガザに侵攻して、ハマス殲滅作戦を開始したいと思っている。
 これに対し、ネタニヤフ首相は米国の圧力もあり、「ガザに侵攻すると人質解放交渉が停止する」として、地上戦の開始を遅らせている。ネタニヤフ首相への国民の不満は強まっており、戦争が一段落した時に彼が退陣させられるのは確実だ。彼は国家よりも保身を最優先にする政治家だ。イスラエル社会は、彼の任期中に不安定化した。政府の足並みの乱れによって、ハマスの大規模テロを防いだり、事前に察知することに失敗した。
 ガザのパレスチナ保健省によると、10月28日までに、イスラエル軍の砲撃や爆撃のために7760人が死亡し2万1400人が重軽傷を負った。死者のうち、約70%が子どもだ。ハマスの大規模テロによるイスラエル側死者数(約1400人)の約5倍だ。
 これに加えて、ガザではイスラエルの「兵糧攻め」により、水、食料、医薬品、燃料などが枯渇している。ディーゼル用の軽油がないと、病院は発電機を使うことができない。このため、市民が重軽傷を負っても、病院での治療を受けられなくなっている。イスラエルはエジプト国境の検問所を通じた水や食料の輸送を許可した。だが、援助物資の量は不十分だ。イスラエル軍の爆撃が激しいので、人道支援団体も安心して活動できない。
 イスラエルの国際的な立場は苦しくなりつつある。10月下旬には、国連事務総長や、EUの安全保障外交上級代表が、負傷者の救援や水・食料の供給のために「人道的理由による戦闘の一時停止」を要求した。アラブ諸国だけではなく、ドイツ、フランスなどでも、イスラエルの爆撃に抗議する市民のデモが起きている。今後、地上戦の開始によってパレスチナ側の死傷者数が急増した場合、国際社会におけるイスラエル批判はさらに強まる。「人道的理由による戦闘の一時停止」をイスラエルが拒否し続けた場合、同国は孤立の度を深める。
 イスラエルを説得できる国、それは同国に毎年多額の軍事援助を行っている米国しかない。米国は1951年から2022年に、イスラエルに対して総額2252億ドル(33兆7800億円、1ドル=150円換算)の軍事援助を行った。米国がこれほど多額の軍事援助を行った単独の国は、イスラエル以外にない。米国はイスラエルの手綱を引き締めることができるだろうか。仮借なき暴力は、新たな憎悪と暴力を生む。
 (11月1日時点)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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