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新ヨーロッパ通信

モンテネグロの自然

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 今年の8月。ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボから、レンタカーで急な山道を走ること7時間。私はモンテネグロの国境検問所を通過した。そこからさらに2時間走る。ふと崖から下を見ると、真夏の日差しを浴びた青いコトル湾が広がっていた。
 ユーゴスラビア連邦から2006年に独立したモンテネグロの人口は約62万人。島根県(約67万人)よりも少ない。モンテネグロの面積は、約1万3800平方キロメートル。福島県(1万3784平方キロメートル)とほぼ同じ広さだ。欧州で最も小さな国の一つである。
 だが、この小国は美しい自然に恵まれており、欧州の他の国々からの訪問者が増えている。例えば、コトル湾に面したドンジ・ストリブという村から、北の方を眺めてみよう。
 紺ぺきの水をたたえた湾は、険しく切り立った壁のような山脈によって囲まれている。山脈には木がほとんどない。アルプス山脈のように荒々しい灰色の岩山である。岩山は何百万年、何千万年をかけて雨水や氷雪に浸食されて、無数の深い溝が刻み込まれている。こうした岩山が、海岸からすぐの場所に聳え立っている。まるで、海が、高い城壁によって囲まれているかのようだ。したがって、コトル湾の周辺には平地が非常に少ない。
 この山脈は、太陽の光によって、朝な夕なに表情を変える。午後5時を過ぎると、険しい山脈が夕日を浴びて、山肌の色が灰色から淡いオレンジ色に変わる。太陽と山並みが織りなすスペクタクルは,何時間見ていても飽きない。
 人々は、海岸に面したレストランに座って、潮騒を聞きながら、岩山の色が刻一刻と変わっていくのを眺めている。絶景を見ながら、潮風の中で冷えた白ワインを飲む気分は格別である。日が暮れて夜になると、対岸の町の灯りが宝石のように輝いて、暗い水面に反射する。
 モンテネグロにはこの他にも、峡谷が美しいドゥルミトル国立公園や、原生林の宝庫ビオグラズカ・ゴーラ国立公園など五つの国立公園がある。手つかずの自然の中で、排気ガスを含まない空気を思う存分吸い込みながらハイキングをしたいという人にとって、モンテネグロは大きな魅力を持つ国である。今後は、「ヨーロッパの隠れ里」ともいうべきモンテネグロを訪れる旅人が増えるに違いない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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