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新ヨーロッパ通信

戦争の最初の死者は真実

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 10月17日夜、ガザ市のアル・アーリ・アラブ病院の付近で爆発があり、パレスチナ側は「市民数百人が死亡した」と発表した。
 パレスチナ武装組織ハマスは、「イスラエルの攻撃だ」と非難。国際法は、病院や学校などを攻撃することを禁止している。これに対しイスラエル政府は、「われわれはこの病院を攻撃していない。ハマスの誤爆だ」と断定し、その「証拠」とされる映像と録音を公開した。
 ガザ地区の外側にあった監視カメラの映像を見ると、夜間にガザ地区からロケット弾が発射され、その一部がガザ地区内に落ちて爆発している。また、イスラエルが傍受したハマス側の通信内容によると、現場を見たハマスの戦闘員が、「イスラム聖戦機構が病院の裏の墓地から発射したロケット弾の一部が、病院に落ちたようだ。破片もイスラエル軍のミサイルではなく、わが方のものだ」と述べている。録音内容の信憑性は、不明である。
 公表されている映像などを分析した民間の研究者は、「パレスチナ側がイスラエルを攻撃するために発射したロケット弾が空中で爆発し、一部が病院に落ちてさらに爆発したようだ」と語っている。BBCは10月17日に早々に「イスラエルが病院を爆撃した」と報じてしまい、「早とちりした」と思っているだろう。事程左様に戦争の報道は難しい。
 ただし、イスラエルがこうした映像や録音を公開しても、イスラム世界でイスラエルに対する非難の声が高まるのは避けられない。彼らは「イスラエルが病院を攻撃した」と確信している。戦争の行方はしばしば論理ではなく、感情に影響される。今後は欧州で、イスラム教徒などによるイスラエルに対する抗議デモ、さらにテロが増えるだろう。
 「真実」は、しばしば戦争の霧の中に隠れて見えなくなる。多数のパレスチナ市民の死はイランやレバノンのヒズボラにとって軍事介入を正当化する引き金になるかもしれない。イスラム世界の怒りは、一段と高まる。イスラエルへの同情は減り、戦争拡大の危険が高まる。
 ミサイルがイスラエル、パレスチナのどちらのものであれ、多くの命が失われたことに間違いはない。ガザのパレスチナ保健省によると、11月9日までに1万人を超える市民がイスラエル軍の攻撃によって殺された。そのうち、約4100人が子どもだ。また、イスラエル側では1400人が虐殺され、約240人が拉致されてガザに監禁されている。一刻も早く戦火が止むことを祈る。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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