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違憲判決でドイツの財政が大混乱(下)

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 11月15日に連邦憲法裁判所が、「コロナ対策予算の他の用途への流用は違憲」とした判決は、ドイツの財政と経済に重大な影響を与える。政府は気候保護・エネルギー転換基金(KTF)の600億ユーロ(9兆6000億円、1ユーロ=160円換算)によってさまざまな助成措置を予定していたからだ。判決後、リントナー財務大臣はKTFおよび通常予算からの支払いを禁止した。KTFからの助成が予定されていたプロジェクトは、産業界の脱炭素化(230億ユーロ)、鉄道インフラの整備(125億ユーロ)、半導体工場の誘致のための補助金(72億ユーロ)など多岐にわたる。
 本稿を執筆している11月30日の時点では、事実上「消滅」した600億ユーロをどのように穴埋めするのか、どのプロジェクトが変更または中止になるのかは確定していない。社会民主党(SPD)や緑の党からは増税を求める声があるが、自由民主党(FDP)は反対している。FDPは生活保護の削減などを要求しているが、緑の党は反対だ。
 国内総生産(GDP)の0.35%を超える財政赤字を禁じる規則(債務ブレーキ)廃止のためには、議員の3分の2の賛成が必要だ。しかし、野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は債務ブレーキの廃止に反対している。政府は2020年~22年と同じく23年も緊急事態の時期に指定し、債務ブレーキの適用を免除し補正予算を組む方針を明らかにしている。
 CDU・CSUは、もう一つ違憲訴訟を準備している。ロシアのウクライナ侵攻が引き金となって電力価格・天然ガス価格が高騰したために、ショルツ政権は23年1月1日から24年3月31日まで、市民や企業の負担に上限を設定した。この措置には310億ユーロ(4兆9600億円)が支出されたが、そのための予算もコロナ対策の基金WSFの枠内で調達された。CDU・CSUは「ショルツ政権がコロナ対策の国債発行権を、エネ価格抑制に流用したのも憲法違反」として訴訟を提起する予定だ。このためショルツ政権は、電力・天然ガス価格への上限設定を23年末で打ち切ると発表した。
 ショルツ政権が重視するエネルギー転換が、予算不足のためにブレーキをかけられる危険もある。同国は30年までに電力消費量に再エネが占める比率を80%に引き上げるという目標を持っている。目標を達成できるかどうかについても、疑問符が投げ掛けられる。
 「欧州の病人」ドイツの肩には、インフレによる国内消費の冷え込み、GDPのマイナス成長に加えて、財政政策の未曽有の混乱という重荷が加わった。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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