ページトップ

Column コラム

ホーム コラム 新ヨーロッパ通信 マクロン「地上軍派遣」発言の背景
新ヨーロッパ通信

マクロン「地上軍派遣」発言の背景

SHARE

Twitter

 ウクライナ戦争をめぐるフランスのマクロン大統領の発言が、物議を醸している。同氏は2月27日にパリで開かれたウクライナ支援会議で、「わが国がウクライナに地上軍を送る可能性はある」と述べた。
 もちろん、マクロン大統領は、ウクライナで戦う方針を打ち出したわけではない。大統領府のスポークスマンも、「大統領が念頭に置いていたのは地雷除去や国境警備などだ」と釈明した。
 ただし、ドイツでは、「ウクライナ軍が苦戦する中、マクロン大統領は地上軍の投入により戦争がエスカレートする可能性を示唆することで、プーチン大統領を抑止しようとした」という見方が有力だ。
 ポーランドやリトアニアなどの政府は、マクロン発言を支持した。これに対しドイツのショルツ首相は「わが国がウクライナに兵士を送ることは絶対にあり得ない」と述べ、地上軍派遣に反対した。バイデン大統領も、「われわれはウクライナで戦うために部隊を派遣するつもりはない」と発言した。NATOのストルテンベルグ事務総長も「地上軍派遣の方針はない」と述べている。
 マクロン大統領にとっては、大半の国々が反対することは計算済みだったに違いない。彼は戦争においては、ドイツのように「絶対に地上軍を派遣しない」と公に発言することは賢い行動ではないと考えている。その理由は、NATO加盟国が派兵の可能性を公に排除すれば、敵に対し「ウクライナで何をやっても、NATOが地上軍を送ることはない。したがって、NATOの介入に対する備えは不要だ」というメッセージを送ることになるからだ。マクロンはパリでの記者会見で、「フランスが地上軍を送る可能性を排除しないのは、戦略的曖昧さを保つことが重要だと考えるからだ」と説明した。
 敵に対しては、判断材料を与えないことが重要である。自国がどのような行動をとるかを敵に予想させないためだ。ドイツのように、はなから「地上軍は送らない」と公言して手の内を明かすことは、プーチン大統領にとってプラスになるとフランスは考えている。筆者も同感であり、オープンな態度、正直なことが最善と考えているショルツ首相は、戦略的思考についてはアマチュアという印象を持っている。
 伝統的に、ドイツの首相は欧州全体に関する戦略を打ち出すのが苦手であるのに対し、フランスの大統領は欧州全体を視野に置き、長期戦略を重視した「グランド・デザイン(大構想)」を描こうとする。今回のマクロン発言は、そうした意図を含んでいる。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE

Twitter
新着コラム