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新ヨーロッパ通信

浩宮様ドイツ随行記(下)

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 1987年に浩宮様(現在の天皇陛下)がドイツを訪問した際に、私はNHK記者として同行した。
 西ベルリンのシャルロッテンブルク宮殿では、浩宮様がベルリンフィルの日本人の音楽家たちとともに、ビオラを演奏した(このことを報じた私の現場レポートは、大変評判が良かった)。
 その後、浩宮様はミュンヘンも訪れ、バイエルン州立歌劇場でオペラを観劇した。このオペラについては、ちょっとした失敗談があるのだが、それはまた後日に。
 一行はミュンヘンだけではなく、デュッセルドルフ、ベルリン、ローテンブルクにも行った。ドイツ警察の先導で浩宮様と記者団が乗った車が高速道路を走る時には、BMWのオートバイに乗ったドイツの警官が進入路を封鎖して他の車を止めて、われわれがスムーズに走れるようにしていた。
 浩宮様は英語が非常に上手で、当時バイエルン州の首相だったフランツ・ヨーゼフ・シュトラウス氏との会談の時にも堂々としていた。「これが帝王学を学んだ人なのだな」と感じた。
 浩宮様は訪欧中、あるホテルで、われわれ随行記者団と一つのテーブルを囲んでビールを一緒に飲んでくれた。われわれ記者にとっては、皇族の方と直接お話をする貴重な機会である。私は酒を飲むとすぐ顔が赤くなるが、浩宮様は全く顔が赤くならず、お酒に強そうだった。幼いころからのお話を伺って、非常に責任感が強い方だという印象を得た。
 ドイツ滞在中に浩宮様は、ミュンヘンの西部にあるニュンフェンブルク宮殿を訪れて「美人の間」を見学した。この大広間には女性の肖像画が多数展示されているので、美人の間という名前が付けられている。この時の経験から、私は毎日ジョギングの際にニュンフェンブルク宮殿の前を通り過ぎるたびに、天皇陛下を思い出すのだ。
 外国に住んでいると、日本以上に皇族との接点が増える。1990年代に浩宮様のご両親(現在の上皇・上皇妃両陛下)がミュンヘンを訪問し、バイエルン州立歌劇場でオペラを観劇した。その時私は、ドイツ外務省の知人のつてでドイツ側の役人たちの待機場所にもぐりこみ、スピーカーを通じてオペラを聞くことができた。オペラが終わったので通路に出たところ、天皇・皇后両陛下(当時)とばったり鉢合わせになった。私は慌てて道を空けて最敬礼した。天皇とこんなに接近することは日本ではめったにない。お顔には疲労の色が濃く、スケジュールの厳しさが感じられた。ことほどさように皇族とは、大変なお仕事である。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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