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日本のGDPはなぜ独に抜かれたのか(下)

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 シュレーダー氏の改革プログラム「アゲンダ2010」は、ドイツの労働費用の伸び率を他の欧州諸国に比べて抑え、企業競争力を引き上げた。2010年以降、ドイツの名目GDP成長率が上昇した一因もこの改革にある。
 経済開発協力機構(OECD)の経常収支に関するデータは、シュレーダー改革が企業の国際競争力を改善し、名目GDP増大に貢献したことを示唆している。2000年にはドイツは360億ドルの経常赤字を記録し、1310億ドルの経常黒字を記録した日本に水を開けられていた。しかし、07年にはドイツの経常黒字が2340億ドルになり、日本(2130億ドル)を追い越した。11年以降はドイツの経常黒字と日本の経常黒字の間の差が大きく開いた。例えば、13年のドイツの経常黒字は日本の5.3倍、14年のドイツの経常黒字は7.6倍に達した。直近の22年の日独格差は2.2倍である。
 ドイツの財の輸出額が02年から22年までに169.3%伸びたのに対し、日本の財の輸出額の同時期の伸び率は79.8%と半分に満たない。10年以降、日独の財の輸出額の開きが拡大している。
 ドイツの財の輸出額が21世紀に伸びた一因は、中国貿易の増加だ。連邦統計局によると、23年のドイツの中国との貿易額(輸出額と輸入額の合計)は2531億ユーロ(43兆270億円、1ユーロ=170円換算)。中国は8年連続で、ドイツにとって最大の貿易パートナーだった。ドイツから中国への輸出額は、11年から22年までに約65%増加した。この輸出額増大も、名目GDPの上昇に寄与している。
 このように日独の名目GDPの差が2010年以降縮まっていたところに、23年のドイツのインフレによって名目GDPが押し上げられた。名目GDPではインフレの影響は差し引かれていないので、物価が上昇すれば名目GDPも増える。23年のドイツのインフレ率は5.9%で、日本を上回っていた。
 さらに日欧の中央銀行の通貨政策の違いによって円安が深刻化した。国際通貨基金(IMF)の統計はドル建てなので、日本の名目GDPは引き下げられ、ドイツに抜かれた。つまり、日独の名目GDPの差が縮まっていたところにインフレと円安が「ダメ押し」のように作用して、今回の逆転劇が起きたのだ。
 ただし、ドイツの将来もバラ色ではない。ドイツの23年の実質GDP成長率はインフレや不況のためにマイナス0.3%。先進7カ国(G7)で最悪の数字だ。IMFは、日本の名目GDPが25年にインドに抜かれ、ドイツも27年にインドに抜かれると予想している。少子化・高齢化が急速に進む日独は、共にGDPの順位が下がる運命にある。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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