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ドイツから見た広島サミット(下)

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 今年のG7サミットは、かつて原爆で破壊された広島で開かれた。このため、サミットの共同声明には、「われわれは核兵器のない世界を作るために努力する」という一文が盛り込まれた。だが、事前に発表されたG7サミット外相声明には、核兵器を「戦争や脅迫を防ぐための抑止手段」として保有することを容認する文章が含まれている。この一文によって、G7諸国は「わが国の核兵器は抑止力だ」と正当化できる。「核兵器のない世界」に矛盾する、一種の抜け穴だ。
 ロシア、中国、北朝鮮が核兵器を自主的に放棄することはない。したがって、米英仏も抑止のための核兵器を放棄することはあり得ない。「核兵器のない世界」は崇高だが、残念ながら実現が極めて困難な努力目標だ。
 また、今回のG7サミットでは、ウクライナ問題が重視されるあまり、地球温暖化対策では大きな進展がなかった。英国やドイツは二酸化炭素の排出量の削減を加速するために石炭火力発電所を全廃する期日を決めることを希望していたが、議長国日本の反対で実現しなかった。
 中国についてのG7諸国のメッセージは、予想以上に宥和的だった。参加国は共同声明の中に、「われわれは中国と建設的な関係を持つ用意がある。われわれの政策は、中国を害したり、中国の経済発展や進歩を阻害したりすることを目的とはしていない。われわれは、中国との関係を断つデカップリングや孤立主義を目指してはいない」と明記した。
 米国政府は中国に対し一部工業製品の輸出禁止措置を取るなど、中国の封じ込めを狙っている。そのバイデン政権がこの文章を受け入れたことは驚きである。この宥和的なトーンには、議長国日本だけではなく、中国経済に大きく依存している独仏の意向が強く反映している。独仏は人権問題だけではなく経済関係も重視している。
 東アジアでは台湾をめぐって緊張が高まっているが、共同声明は、「世界のいかなる地域でも、領土を武力によって変更してはならない」と述べるにとどめ、中国を名指しにすることは避けた。ここにもG7諸国の習近平政権への忖度(そんたく)が感じられる。
 1975年に最初のG7サミットが開かれた時、参加国の国内総生産(GDP)が世界のGDPに占める比率は約60%だった。現在この比率は30%に下落している。つまり、国際経済の中でG7の持つ影響力は低下した。欧米のメディアで広島サミットに関する報道が日本のメディアに比べて地味だった背景にも、G7の比重の低下がある。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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