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ウクライナ戦争は長期化へ

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 6月上旬、ロシア政府は「ウクライナ軍は同国南部のザポリジャ付近で反転攻勢を開始したが、わが軍によって撃退された」と発表した。ウクライナ政府はその事実を否定している。だが、ロシア軍が公表した写真には、ドイツ製のレオパルド2型戦車や米国製のブラッドレー歩兵戦闘車の残骸が映っている。これらの兵器は、欧米諸国がウクライナ政府に供与したものだ。したがって、ウクライナ軍が西側の装甲車両を使ってロシアに対する攻撃を始めたことは間違いなさそうだ。
 西側軍事筋の間では、今年春以降、ウクライナが反転攻勢を始めるという見方が強まっていた。昨年2月24日にロシアが侵攻作戦を始めてから1年以上たったが、戦線は膠着状態だ。当初ロシア政府は短期間で首都キーウを陥落させられると考えて、比較的少ない兵力で侵攻作戦を始めた。ところが、ウクライナ軍の激しい抵抗のために、ロシアはキーウ占領に失敗した。その後、欧米諸国が大量の兵器をウクライナに供与したため、ロシア軍は思うように進撃できなくなった。
 日本では、一部の論客が「ウクライナは一刻も早く譲歩して、停戦交渉を始めるべきだ」と発言している。外務省の元分析官佐藤優氏ですら、「ウクライナは分割するしかない」と言った。こうした意見は、欧州では少数派だ。ウクライナはロシアから一方的に攻め込まれた被害者である。ウクライナ政府にとっては、ロシア軍部隊が撤退するまでは、停戦交渉はあり得ない。ウクライナにとっては、ロシアが2014年に併合したクリミア半島も含めて、不法に占領されている地域を全て奪回するまで、交渉のテーブルにつくことはあり得ない。ウクライナの意向を無視して、第三国がロシアとの和平交渉を仲介することはタブーだ。
 このため、ウクライナのゼレンスキー大統領は今年5月のインタビューの中で、「この戦争は数年間、もしくは数十年間続くかもしれない」と語っている。
 一方、ロシアのプーチン大統領も「ウクライナを支配しているネオナチを駆逐するまで戦う」と断言している。彼は昨年10月の演説で、「欧米が世界を支配する時代は終わった。現在われわれが経験しているのは、世界に新しい秩序を生む革命の時代だ。第二次世界大戦後、最も危険で不透明で困難な10年間が訪れる」と発言した。
 ロシアは7月に隣国ベラルーシに核ミサイルを配備する方針だ。これらの事実から、欧州の戦争は、長期化すると考えざるを得ない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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