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シェイクスピアと海上保険

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 文豪シェイクスピアが1594年から1597年頃に書いたとされる戯曲に『ヴェニスの商人』がある。
 この物語について、「主人公の貿易商アントーニオが海上保険に入っていたら、難破した船団の補償が受けられ、悪徳高利貸シャイロックと裁判にならず、裁判官に扮したポーシャが、『確かに肉1ポンドは切り取っても良いが、血の一滴も流してはならない』という判決を下すことも必要もなかったのではないか」という議論が以前からあった。
 戯曲自体はキリスト教とユダヤ教の宗教対立など別の背景があり単純なものではないが、海上保険が登場しないというのは保険業界人としても興味深い。
 1230年頃ローマ法王のいわゆる利息禁止令により、前身制度の冒険貸借が禁止され、その後曲折を経て14世紀後半にはイタリアを中心に海上保険が成立したと歴史書にはある。そのイタリアの北東部にヴェニスは所在する。
 海上保険に加入していなかった理由としては、①アントーニオは海上保険に頼らず、自ら船団を分割して航行させて危険分散をしていた②一種の自家保険を行っていたのだが資金不足だったのでないか③それでは物語そのものが成立しないからだ―など、いろいろ言われてきた。今はやりのChatGPTに質問しても、同様な答えが3種類ほど返ってきた。
 もっとも、海上保険のブローカーとアンダーライター組織、有名なロイズがロンドンで出現するのは、この作品が発表されてから百年以上たった18世紀のことであるから、作品のためにわざとスルーしたのではなく、ただシェイクスピアは海上保険を知らなかっただけという単純な結論も有りうるかもしれない。(朗進)

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