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ウクライナ復興の遠い道

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 6月21日から2日間にわたり、ロンドンで欧米諸国がウクライナ復興に関する会議を開き、戦争で破壊されたインフラの再建を積極的に支援するという方針を確認した。
 この会議で欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、2027年までにウクライナの復興のために、借款や贈与の形で500億ユーロ(7兆5000億円、1ユーロ=150円換算)を注ぎ込む方針を明らかにした。EUはロシアの富豪などから没収した国外資産も、ウクライナ復興のために流用することを目指している。また、米国のブリンケン国務長官も、同国がウクライナに13億ドル(1820億円、1ドル=140円換算、以下同じ)を供与する方針だ。そのうち5億ドルは、ウクライナのエネルギー関連のインフラの修復に充てられる。
 英国もウクライナ復興のために2億4000万ポンド(437億円、1ポンド=182円換算)を供与するとともに、30億ドルの信用保証も実施する。さらに英国は、民間企業によるウクライナへの投資を促進することで、同国の復興を援助することを目指している。同国のスナク首相は「38カ国の約400社の企業がウクライナへの投資を約束した。これらの企業の株式時価総額は、4兆9000億ドル(686兆円)に達する」と述べた。
 しかし、ウクライナ復興への道は遠い。ウクライナ政府のシュミハリ首相はロンドンでの会議で、ロシアの侵略によって同国が受けた被害額を4110億ドル(57兆5400億円)と推定した。しかも、ロシア軍の攻撃が続いているために、被害額は刻々と増えている。戦火が止むめどはついていない。
 英国政府は民間企業にウクライナへ投資させたいようだが、戦争が続いている中でどのようにして投資を促すのか。例えば、あるドイツ企業が、ウクライナに新しく自動車部品工場を建設したとしよう。その工場がロシアのミサイルで破壊されて操業できなくなった場合、誰が損害を補償するのか。民間の損害保険は、戦争による被害を通常カバーしない。つまり、各国政府が潤沢な投資保証制度を準備しない限り、戦争が続いている時期に、紛争地域に直接投資を行う企業は少ないと思われる。
 ゼレンスキー大統領は、ロンドンとキーウを結んで行ったビデオ演説で、「融資や投資の約束だけではなく、実際のプロジェクトを始めてほしい」と訴えた。だが、民間資金がウクライナに本格的に流れ込むまでには、まだ相当の時間がかかるに違いない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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