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インフレでドイツ経済が失速

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 ドイツ経済が不調だ。9月6日にはドイツの経済研究所が、今年の予測GDP成長率をマイナス0.3%からマイナス0.5%に引き下げた。国際通貨基金(IMF)によると、G7加盟国の中で今年マイナス成長が予想されているのはドイツだけだ。
 連邦統計局によると、今年7月のドイツの失業者数は約262万人で、前年の7月に比べて約15万人多かった。今年5月には1478社が倒産したが、これは昨年の5月の件数を19%上回る。
 工業生産にも黄信号が灯った。今年6月のドイツ製造業界の生産量は前の月に比べて1.5%減った。ものづくりの柱・自動車業界の今年6月の生産量は前月比で3.5%、機械製造業界の生産量は1.3%それぞれ減少した。
 自動車業界は、コロナ禍とウクライナ戦争の悪影響からまだ完全に立ち直っていない。ドイツ自動車工業会(VDA)の発表によると、今年上半期のドイツ企業の乗用車の販売台数は、コロナ・パンデミックが発生する前の2019年の同期に比べて24%も少なかった。
 政府は、「景気停滞の主因は、ロシアのウクライナ侵攻以降のインフレに端を発する国内消費の冷え込みだ」とみている。昨年ドイツの消費者物価指数は、2021年に比べて6.9%上昇した。過去30年間で最高のインフレ率だ。
 インフレは貨幣価値を下げ、市民の購買力を減らす。連邦統計局は「今年の第1四半期の個人消費支出は、直前の四半期に比べて1.2%減った」と報告している。
 欧州中央銀行は物価上昇に歯止めをかけるために、過去1年間に政策金利を10回引き上げた。インフレ率は下降傾向を見せているものの、今年7月のインフレ率は6.2%とまだ高い。インフレと金利引き上げは市民の消費意欲を失わせる。今年上半期のドイツの住宅の建設許可数は13万5200件にとどまった。前年同期に比べて27%も少ない。
 もう一つの理由は、ドイツにとって最大の貿易相手国・中国経済の失速だ。経済学者たちは、中国の今年第2四半期のGDPが前年同期比で7.3%増えると予想していたが、実際にはGDP成長率は6.3%にとどまった。今年第1四半期の中国のGDPは28兆5000億人民元で、昨年の第4四半期に比べて15.1%減った。若年失業率は6月には21.3%に達した。
 英国エコノミスト誌は、1990年代同様にドイツを「欧州の病人」と呼んだ。ショルツ政権は、この汚名をいつ返上できるだろうか。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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