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イスラエルの油断(3)

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 私は2015年にイスラエルを訪れた時、「03年に比べてテロに対する警戒が大幅に緩和された」と感じた。その理由は、自爆テロに手を焼いたイスラエルがパレスチナ人居住地域とユダヤ人居住地域の間に長大な壁を建設したために、自爆テロの数が激減したからだ。ホテルの入り口の金属探知機や、レストランの入り口のガードマンも見られなかった。空港から出国する時の検査も、03年ほど厳しくなくなった。海岸の遊歩道をパトロールしていた兵士たちの姿も消えた。壁建設によって自爆テロの件数が大幅に減ったことで、イスラエルの警戒態勢が緩んでいた可能性もある。
 もう一つの理由は、ここ数年間のイスラエルの内政上の混乱である。テルアビブ在住の作家リジー・ドロンさんは、ネタニヤフ政権に批判的な、リベラル派に属する市民である。彼女は、ネタニヤフ政権の政策をめぐり、イスラエル社会が大きく二つに分断されてきたと語る。ネタニヤフ首相は21年6月に政権樹立に失敗し、首相の座を退いた。彼は汚職や詐欺の疑いで検察庁から起訴されていた。だが、ネタニヤフ氏は22年12月に、保守的な正統派ユダヤ教徒を支持基盤とする極右政党の助けを借りて、首相に再選された。
 イスラエル社会をリベラル派と保守派の間で真っ二つに割っていたのは、ネタニヤフ政権が目指す「司法改革」だ。司法改革が実現すると、議会は裁判所の判決に反した決定を行うことができるようになる。裁判所の判決を無効化するに等しい。さらに、政府の代表が、裁判官選任委員会の中で過半数を占められるようになる。これも、裁判所に対する政府の統制を強めるための措置だ。
 リベラル派の市民は、「ネタニヤフ首相の意向が実現したら、三権分立が廃止され、イスラエルは法治国家ではなくなる」と主張し、しばしば15万人もの市民がテルアビブなどで抗議デモを繰り広げた。イスラエルはこれまで、中東で唯一の民主主義国家だった。だが、ネタニヤフ首相の目論見は、この国を大きく変質させる危険がある。つまり、ネタニヤフ政権は、内政の混乱に気を取られて、ガザ地区で準備されていた大規模テロの予兆をキャッチすることに失敗した可能性がある。
 多くの同胞を殺されて憤怒に燃えたネタニヤフ政権、そしてイスラエル軍は、ハマスを殲滅するために、ガザを徹底的に攻撃する。巻き添えになるガザ市民には地獄のような日々が待っている。中東の流血の連鎖は、一体いつ終わるのだろうか。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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