カテナ―Xがやって来た(上)
欧州の製造企業は、2020年のコロナ・パンデミックや22年のロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの寸断、部品・原材料の不足にひどく悩まされた。こうした事態に備えるため、ドイツの自動車・IT業界は、サプライチェーン強靭化のためにデータを共有するエコシステム「カテナ―X」を10月16日に始動させた。
カテナ―Xは、21年にBMW、メルセデス・ベンツ、自動車部品メーカーZF、ソフトウエアメーカーSAPなどが創設した。現在ドイツ、米国、中国、日本などの約170社が参加している。原材料の調達企業、サプライヤー、自動車組み立て企業(OEM)、リサイクル企業などが、クラウドシステムに接続して他社とデータを共有する。
最大の目的は、サプライチェーンの強靭化だ。ドイツではコロナ・パンデミックやウクライナ戦争の際に、半導体や部品の不足により一部の自動車工場が生産停止に追い込まれた。カテナ―Xの参加企業は、原料や素材、部品が不足する兆候を早急にキャッチし、新しい調達先を探すことができる。工場の操業停止、生産中断による損害を最小限に抑えるための早期警戒システムだ。昨年ある企業で部品の欠陥が見つかったので、カテナ―Xのアプリを使用したところ、欠陥部品が使われている製品を迅速に把握することができ、リコール台数を80%減らすことができた。
さらに、カテナ―Xのシミュレーション機能を使って、個々の企業のサプライチェーンの「アキレス腱」を探し出すこともできる。そうすれば企業は、自社の調達計画の弱点を見つけて、改善することが可能だ。
カテナ―Xのもう一つの目的はESG(環境・社会・ガバナンス)対応だ。欧州連合(EU)は、50年までにカーボンニュートラルの達成を目指している。自動車業界はEUの監督・規制により、サプライチェーンから排出される二酸化炭素(CO2)の量の把握と削減を行わなくてはならない。これまで自動車業界はカーボン・フットプリント(CFP)の報告に業界の平均値や推定値を使っていた。しかし、カテナ―Xを使うと、サプライチェーンからの実際のCO2排出量を測定することができる。
さらにドイツ企業は、今年1月に施行された人権デューデリジェンスに関する法律に基づき、サプライヤーが強制労働や環境汚染を引き起こしていないことを毎年政府に報告しなくてはならない。カテナ―Xを使えば、人権侵害が疑われる国からの原材料などが使われていないことを迅速に確認できる。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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