カテナ―Xがやって来た(下)
ドイツの自動車・IT業界が今年10月16日に始動させたデジタル連携システム・カテナ―Xの「カテナ」とは、ラテン語で鎖を意味する。自動車業界が結束して、データの鎖を作るからだ。自動車メーカー、サプライヤー、素材供給企業などがデータを共有することで、遡及可能性が高いエコシステムが生まれる。このプロジェクトはさまざまな用途を持っている。
その一つが、蓄電池パスポートだ。欧州連合(EU)は2026年から電気自動車(EV)の蓄電池について証明書の発行を義務付ける。この証明書には、蓄電池を生産するために排出される二酸化炭素の量、強制労働などが行われている国で生産されていないこと(人権デューデリジェンス)、リサイクル率、有害物質の含有量などが記載される。この証明書がない蓄電池は、EU域内で売買・使用できない。カテナ―Xを使えば、証明書の作成に必要なデータを迅速に把握することができる。
EUは来年重要原材料法を施行し、EVのモーターに使われる永久磁石に不可欠な希土について、域内でのリサイクルを強化する。「特定の素材がどの部品にどれだけ使われているか」を迅速に把握できるカテナ―Xは、循環型経済への移行にとっても重要なツールだ。
つまり、環境保護・人権保護などガバナンス順守に必要な、さまざまなデータを瞬時に把握できるのが、カテナ―Xの強みだ。
ドイツ政府は、カテナ―Xを、11年に開始した製造業のデジタル化計画インダストリー4.0の最初の実装例と位置付け、1億ユーロ(160億円、1ユーロ=160円換算)の助成金を投じて支援している。政府は、この試みが自動車業界で成功した場合、機械製造、化学、製薬など他業種にも拡大する(この計画は、マニュファクチャリング―Xと呼ばれる)。
一方、日本の経済産業省が今年4月に公表したデジタル連携プロジェクト「ウラノス」も、似た計画だ。日本自動車工業会などはこのプロジェクトを通じて、蓄電池の遡及可能性を高めるエコシステムの構築を目指している。日本側は、今年6月に東京で開かれたインダストリー4.0日独フォーラムで、「カテナ―Xと共同で作業し、将来はウラノスと接続することを検討している」と発表している。将来は蓄電池以外の部品にも広げる予定だ。
今後、日独の自動車業界のデジタル連携が、どのような付加価値を生むかが注目される。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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