違憲判決でドイツの財政が大混乱(上)
ドイツ連邦憲法裁判所(BVerfG)が11月15日に下した判決は、政府だけでなく経済界、市民社会を驚かせた。判決の中で第二法廷のドリス・ケーニヒ裁判長は「ショルツ政権がコロナ・パンデミック対策予算のうち、余った600億ユーロ(9兆6000億円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)の国債発行権を、無関係の特別予算『気候保護・エネルギー転換基金(KTF)』に流用したのは憲法違反。このため、ショルツ政権が2022年初めに成立させた21年度の2回目の補正予算は無効だ」と述べた。KTFの資金規模(2120億ユーロ〈33兆9200億円〉)が一挙に約28%減ってしまった。
判決の背景は、憲法の財政規律ルール「債務ブレーキ」だ。連邦政府は国内総生産(GDP)の0.35%を超える財政赤字を禁止されている。国の借金が将来の世代に過重な利払いなどの負担を残すことを禁じるためだ。
だが、20年にはコロナ・パンデミック、22年にはロシアのウクライナ侵攻という未曽有の事態が発生し、政府は想定外の財政出動を迫られた。憲法によると、自然災害や深刻な不況など政府がコントロールできない異常事態には、債務ブレーキの適用を一時的に停止することができる。このため連邦議会は、20年~22年の3年間については、債務ブレーキを停止した。ドイツ政府は20年3月、コロナ対策費用調達のために経済安定化基金(WSF)を創設し、1500億ユーロ(24兆円)の資金を国債発行によって追加的に調達できることになった。
18年~21年までメルケル政権の財務大臣だったショルツ氏は、21年12月に首相に就任した。同氏は、21年にコロナ対策に充てられる予定だったWSFの予算のうち、600億ユーロの国債発行権が使われずに残っていたことに気付いた。三党連立政権は、再エネ拡大や産業界の脱炭素化など、多額の資金を必要とするプロジェクトを実行する予定だった。そこでショルツ首相は22年前半に21年度向けの補正予算を組み、余った600億ユーロの国債発行権を、経済グリーン化やデジタル化を主目的とするKTFに流用させた。
だが、憲法裁は、ショルツ政権がコロナ対策に充てるはずだった国債発行権を経済のグリーン化などの全く違う用途に流用する際に、その理由を十分に開示しなかったことや、債務ブレーキが免除された会計年度が終わった後も、特別予算を理由に新たな借金をできるようにした点を違憲と認定した。同裁判所の判決には控訴・上告ができない。ショルツ首相にとっては大ショックである。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92