2024年の世界を覆う暗雲
2023年の世界では暗いニュースが多かった。24年はどんな年になるだろうか。
今年2月にはロシアのウクライナ侵攻が始まってから丸2年になる。欧米諸国などは20年1月から23年10月までに、ウクライナに対して2471億ドル(37兆650億円、1ドル=150円換算)の軍事・経済・人道援助を行ってきた。それにもかかわらず、ウクライナ軍はロシア軍が築いた陣地を突破することができず、戦争は膠着状態に陥っている。プーチン大統領は戦争を長期化させることによって、兵員の数において劣るウクライナ軍を疲弊させ、圧倒しようとしている。ウクライナ軍の将兵の数は予備役を含めて約170万人だが、ロシア軍は予備役を含めて約247万人で、約45%多い。
ウクライナの将来にとって、今年11月5日に米国で行われる大統領選挙は、極めて大きな意味を持つ。現在トランプ大統領の共和党内での支持率はトップであり、同氏がホワイトハウスに返り咲く可能性はゼロではない。万一トランプ氏が再選された場合、米国の対ウクライナ軍事援助は大幅に減らされる。彼以外の共和党の政治家が大統領になっても、ウクライナへの援助をバイデン政権と同じレベルに保つことは難しい。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「われわれは祖国だけではなく、ヨーロッパをも守っている」と主張する。確かに、万一ウクライナがロシアに占領された場合、プーチン大統領は味をしめて、モルダウ、バルト三国、ポーランドなどにも矛先を向ける危険がある。彼の究極の目標は、「偉大なロシアの復活」にあるからだ。秘密警察の元将校プーチンは、失われた帝国・ソ連に深いノスタルジーを抱いている。
米国からの対ウクライナ支援が激減した場合、ドイツをはじめとする欧州諸国は、武器支援・財政支援を大幅に増やさなくてはならない。ウクライナがロシアに支配されたら、欧州大戦の危険は一段と高まる。
中東情勢も混乱している。昨年10月7日にハマスが大規模テロでイスラエル人約1200人を殺害したことから、イスラエル軍がガザ地区に猛烈な攻撃を加えている。ガザ保健省によると、パレスチナ側の死者は12月22日の時点で2万人を超え、約70%が子どもと女性である。イスラエルを支持している米国・ドイツ政府も、ネタニヤフ政権に対し、市民の死傷者を抑える努力を強めるよう要求している。流された血は、新たな憎しみを生む。中東の戦乱は欧州でのテロの危険も高める。一刻も早く戦火が止むことを祈る。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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