世界初!EUのAI規制法
欧州連合(EU)加盟国は12月9日、世界初の人工知能(AI)規制法について合意した。EUはこの法律によって、AIをめぐるリスクの管理を目指す。特に企業や省庁によるAIの使用が市民の人権侵害につながることを防止する。
焦点の一つは、AIを使った市民の監視や社会的スコアリングの禁止だ。中国政府が行っているようなAIを併用した社会全体の監視は禁じられる。顔の自動認識機能を利用して、市民の行動、思想、信条、人種などに基づいた評価を行うことは、EU加盟国では違法行為となる。AIと顔の自動認識機能を併用した捜査が許されるのは、テロや誘拐事件の容疑者の捜査や誘拐被害者の捜索などの時だけだ。捜査当局によるAIと顔認識機能を使ったインターネット上の個人情報の収集も禁じられる。
EUは2年前からAI規制法案について協議を続けてきた。2022年に米国オープンAI社が世界で初めて生成AI「ChatGPT」を公表し、個人や企業が使用できるようになったため、EUの規制法でも生成AIの扱いが焦点の一つになった。EUではChatGPTのベースになっているGPT―4などの基礎モデル(GPAIともいう)を制作する企業は、生成AIの訓練方法などに関する技術的データの公表を義務付けられる。その理由は、出版業界やメディアから、生成AIがネット上に公表されている著作物などを無断で使用し、著作権を侵害する危険性が指摘されたからだ。
ただし、ドイツの政府や企業からは「AIを厳しく規制すると、メーカーが米国や中国へ逃げてしまい、欧州独自のAI産業が発達しなくなる」として、過度な規制に反対する意見も出された。このためオープンソース上で開発されるAIや中小企業が開発するAIについては、大企業ほど厳しい情報公開は求められない予定だ。
オープンAIのアルトマンCEOは23年5月に米国議会上院の公聴会で、「AIは人類を殲滅する可能性を秘めている」として、リスクを最小限にするための規制法の施行を求めた。AIエンジニアによると、AIには①ANI(Artificial Narrow Intelligence)=初歩的AI②AGI(Artificial General Intelligence)=一般AI③ASI(Artificial Super Intelligence)=超AI―の三つの進化の段階がある。
今から30~40年後にはASIが生まれるとみられている。ASIを開発した個人、団体、企業、政府などは他者を支配することが可能になる。世界経済フォーラムが23年4月に公表した報告書によると、AIのために全世界で3億人が失業する可能性がある。人類はAIの暴走を防ぐことができるだろうか?
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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