ページトップ

Column コラム

ホーム コラム 新ヨーロッパ通信 ガザの地獄(下)
新ヨーロッパ通信

ガザの地獄(下)

SHARE

Twitter

 国際法には冷酷な面がある。国際法は、攻撃された国に自衛・反撃の権利を与えている。国際法は、市民を無差別に攻撃したり、病院や学校などを攻撃することを禁止している。しかし、軍隊やテロ組織が病院や学校などの民間施設に武器や弾薬を隠している場合には、これらの民間施設も軍事施設と同等にみなされ、攻撃が可能になる。このため国際法は、病院や学校などの民間施設に武器や弾薬を隠すことを禁じている。
 イスラエルは「ハマスはロケット弾の発射装置や弾薬を病院や住宅が密集した地域などに隠している。死傷者数が増えているのは、ハマスが市民を盾として使っているからだ」と主張する。国際法は、軍事目標の重要度と付随的損害の間のバランスを取ることを義務付けている。だが、国際法は、このバランスを数値化していない。バランスについての判断は、戦争当事国に任されている。
 例えば、1人のハマス幹部を殺害するために30人の民間人が死ぬことは、バランスが取れているのか。それとも、1人のハマス幹部を殺すために120人もの市民が死ぬことを許容するのか。われわれ一般人の感覚では、1人でも子どもが巻き添えになれば多過ぎると感じられる。だが、中東での戦争では、われわれの庶民感覚は全く通用しない。
 イスラエルには、これまでも攻撃されると「倍返し」をする傾向があった。今回イスラエルは、1回の攻撃で1200人の市民を殺され、約240人を拉致されるという、第二次世界大戦中のナチスによるホロコースト以来、最大の被害を受けた。しかも、ハマスのテロリストは、イスラエル人を殺害する前に拷問したり、女性に性的暴行を加えたりした上に、殺害の模様をインターネット上で「実況中継」するなど、残酷な殺害方法を取った。イスラエルは、ナチスによる迫害の経験から、「自分を守るのは武力しかない」と信じており、外国からの非難は一顧だにしない。一街区全体を吹き飛ばすイスラエルの攻撃の仕方を見ると、「復讐」という言葉が脳裏をよぎる。
 ハマスが壊滅させられても、その思想は死なない。今回の戦争は、パレスチナ人をさらに過激化させる危険がある。家族を殺されたパレスチナ人はイスラエルに対する復讐を誓い、10月7日事件のような惨劇が再び起きる可能性がある。血で血を贖う憎しみの連鎖は、当分終わらない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE

Twitter
新着コラム