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農民一揆に揺れるドイツ

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 1月8日、ミュンヘン、エアフルト、ハレなどドイツ各地の幹線道路、高速道路は、数千台の大型トラクターが引き起こした渋滞のために通行できなくなった。ショルツ政権の歳出削減策に抗議するために、ドイツ農業連盟(DBV)が組織したデモだ。
 農民たちの抗議デモのきっかけは、昨年11月15日の連邦憲法裁判所による違憲判決だ。ショルツ政権は2022年に、コロナ・パンデミック対策向けの予算のうち、使われずに残っていた600億ユーロ(9兆6000億円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)の国債発行権を、経済の脱炭素化やデジタル化のための基金に流用した。連邦憲法裁は、この予算措置を違憲と断定した。判決によって、24年度予算に170億ユーロ(2兆7200億円)の不足分が生じた。
 窮地に陥ったショルツ政権は、農家向け補助金に白羽の矢を立てた。政府は12月13日に、予算不足を解消するため、農業向けトラクターの車両税の免除措置と農業用ディーゼル燃料にかかるエネルギー税に対する税制上の優遇措置を24年から廃止する方針を突然発表した。これによって農家の税負担は9億ユーロ(1440億円)増えることになった。
 DBVはこの措置に抗議するために12月18日にベルリンで抗議デモを実施。約1700台の大型トラクターがベルリンの主要道路で大渋滞を引き起こし、一時交通をまひさせた。農民たちからは、「ベルリンの政治家や官僚たちは、現実世界から切り離された『バブル』の中で、畑で汗水垂らして働いたことのないコンサルタントやアドバイザーの意見だけを聞いて政策を決めている」という強い不満の声が聞かれた。
 農民たちの抗議デモに恐れをなしたショルツ政権は、1月4日に農業用トラクターへの車両税導入を撤回した。同時に政府は、農業用ディーゼル燃料への税制上の優遇措置を一度に撤廃するのではなく、26年までに3段階に分けて撤廃すると発表した。ただし、DBVはこの措置に満足せず、農業用ディーゼル燃料への税制上の優遇措置の廃止も撤回させるべく、1月8日から5日間にわたって各地で抗議デモを繰り広げた。
 ショルツ政権には、政策の影響について熟考することなく政策を発表し、世間から批判されると政策を引っ込めるというパターンが見られる。こうした態度は、市民の政府への不信感を増幅する。
 今回の農民デモは、ドイツで行われた農民の抗議行動の中でも最も規模が大きいものの一つであり、農民デモが頻発する西隣のフランスに似てきたという印象を受ける。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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