ドイツ政府がBEV補助金を突然廃止
ドイツのショルツ政権は、歳出を減らすためにBEV(電池だけを使う電気自動車)の購入補助金を昨年12月17日に廃止した。自動車業界からは「普及政策に逆行する」と批判の声が上がっている。
補助金廃止によってBEVを買う市民の負担は最高4500ユーロ(72万円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)増えた。問題は、補助金が新車を注文した時点ではなく、車が陸運局で登録され補助金申請が提出された後に支払われることだ。つまり、補助金をあてにして新車を買ったものの、12月17日までに登録しなかった場合には、政府補助金が出ない。メーカーからの補助金は出るが、政府補助金の半額だ。
もともと政府は、この補助金を24年末に廃止する予定だった。だが、11月15日に連邦憲法裁判所がショルツ政権の過去の予算措置について違憲判決を下したため、24年度予算が170億ユーロ(2兆7200億円)不足し、ショルツ政権は12月13日に歳出削減に踏み切った。
自動車業界からは補助金廃止の前倒しについて、強い批判の声が上がっている。ドイツ自動車工業会は「補助金の早期廃止は業界と市民に不安を与えている。政府は30年までにBEVの普及台数を1500万台に引き上げるという目標を達成できない恐れがある」と警告した。さらに、「すでに新車を注文したが、まだ当局に登録していなかった市民も補助金をもらえるように規則を変更してほしい」と要望している。
ドイツ政府は16年にBEVの購入補助金を導入。20年にはコロナ禍の景気対策の一環として政府補助金の額を2倍に増やしたため、20年からの3年間にBEV登録台数は3倍に増えた。政府は16年以来、213万台のBEVに約100億ユーロ(1兆6000億円)の補助金を投じた。
だが、ある企業コンサルティング会社は「補助金廃止により、24年のドイツでのBEVの販売台数は25万台減るだろう」と予測している。
同国で使われている乗用車のうち、BEVの比率は2.1%と低い。最大の理由は高価格だ。ドイツ自動車研究センター(CAM)の調べによると、23年に同国で登録されたBEVの新車平均価格は5万2700ユーロ(843万2000円)。ドイツで売られている105車種のBEVのうち、3万ユーロ(480万円)未満で買えるのは3車種しかない。内燃機関の車と違ってBEV中古車市場の規模はまだ小さい。公共充電器が約8万5000基と少ないこともネックだ。
CAMのブラツェル所長は「補助金廃止はモビリティー転換とドイツのメーカーにとって深刻な打撃となるだろう」と語っている。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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