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ドイツ・反極右デモの背景(上)

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 多くのドイツ市民が、極右勢力や社会の右傾化に対抗するために立ち上がった。右翼政党・ドイツのための選択肢(AfD)の党員が参加した秘密会合で、外国人追放計画が協議されていたことがわかり、各地で多数の市民が抗議デモを繰り広げた。
 1月20日と21日、肌を刺す寒気の中、「AfDを止めろ」「全てのナチスは愚かだ」などと書いた手製のプラカードを持った市民たちが、ベルリン、ミュンヘン、ケルン、フランクフルト、ハンブルクなどで広場や道路を埋め尽くした。デモは旧西ドイツだけではなく、ドレスデン、エアフルトなど旧東ドイツの町でも行われた。最も規模が大きかったのは、1月21日にベルリンで開かれた抗議集会で、警察発表によると10万人が参加。主催者は「35万人が集まった」と述べている。
 連邦内務省によると、この2日間に全国でデモに参加した市民の数は91万600人に上る。1992年に旧西ドイツのメルン、93年にゾーリンゲンでトルコ人が住む家が極右勢力のメンバーによって放火され、合計8人が死亡した時にもドイツ各地で市民がデモを繰り広げたが、今回のデモの規模ははるかに大きかった。その理由は、AfDの支持率が高まったり、反ユダヤ主義が強まったりするなど、社会の右傾化が強まっているからだ。デモ参加者からは、「今の雰囲気は、1930年代にナチスが権力を掌握する直前の雰囲気に似ている」という声すら聞かれた。
 多くの市民の危機感を高め、抗議デモに駆り立てたのは、調査報道センター・コレクティーフが1月10日に公表したスクープ記事である。コレクティーフによると、昨年10月25日に、ポツダムのホテルで極右勢力の関係者やAfD党員らが秘密会合を開いた。この会議で一人のネオナチが、新法を制定することによって亡命申請者など数百万人の外国人をドイツから追放する「マスター・プラン」について説明した。
 彼は追放するべきグループとして、「亡命申請者」「ドイツにとどまる権利を持っている外国人」「ドイツに帰化したが社会に適応しようとしない元外国人」を挙げた。つまり、ドイツに帰化して国籍を取得した外国人をも追放するというのだ。コレクティーフは、「ドイツ国籍を持つ者を肌の色や出身地で差別し国外追放するという提案は、憲法違反だ」と批判している。
 帰化した外国人をドイツ人と見なさず、ドイツ人から生まれた「ビオ・ドイツ人」しかドイツ人と認めない純血主義は、極右の特徴である。
 (つづく)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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