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欧州の心臓部・EUとブリュッセル

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 昨年10月7日、私はベルギーの首都ブリュッセルで地下鉄に乗り、シューマン駅で降りて地上に出た。レストランや住宅が並ぶ一角に、灰色の無数の窓格子に覆われた威圧的な建物がそびえていた。建物の前には、27本のポールに青と黄色の星をあしらった旗がたなびいている。欧州連合(EU)の中央政府にあたる欧州委員会の本部だ。
 かつてここにあった修道院の名前を取ってベルラモンと呼ばれるこの建物には、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長ほか、26人のコミッショナー(委員)たちが執務室を持っている。委員は政府の閣僚に相当し、外務、農業、法務、エネルギーなどさまざまな分野を担当している。1969年に完成したベルラモンでは、約3000人の職員が働いている。
 EUの人口は約4億4800万人。27カ国が加盟する世界最大の国際機関だ。そのうち共通通貨を使用するユーロ圏の人口は約3億4300万人。複数の国が構成する経済圏として世界最大の規模を持つ。各国の経済に関する法律のほぼ半分は、EU法を国内法として制定したものだ。EUは内燃機関を使う新車の販売禁止から環境保護に貢献するビジネスの定義、外国からの重要な天然資源への依存度まで決める権利を持っている。EU法に従わない国、EUが重視する三権分立、言論の自由などの価値を共有しない加盟国に対しては、補助金を凍結することで「罰金」を科すこともできる。EUの決定はわれわれの日常生活の隅々にまで及ぶ。このビルで働く委員たちは欧州で最強の権力を持つ人々だ。
 ベルラモン周辺は「欧州地区」と呼ばれる。欧州理事会、欧州議会など約40のEU関連施設がここに集中しているからだ。約4万人のEU職員がこの地区で働く。欧州議会はストラスブールにもあるが、本会議は4週間ごとにブリュッセルと交代で開かれる。そのたびにEU職員や議員たちは二つの町の間を電車や飛行機で行ったり来たりする。EU職員や議員たちの間には「欧州議会をブリュッセルだけにして時間と費用を節約するべきだ」という意見もある。だが、EU創設国の一つであるフランスは自国領土内に欧州議会があることを重視しており、ストラスブールの廃止には同意しないとみられている。
 強大な権力を持つ欧州委員会の委員たちが加盟国の国民による選挙で選ばれないことについては、右翼勢力などから「EUには民主主義が欠如している」という批判が出ている。EUが市民の理解を得るには、この点を改善する必要がある。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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