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二酸化炭素が減った理由は不況

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 まだ2月なのにミュンヘンの気温は10度。早春のようだ。欧州の最近の気候には、温暖化の影響がはっきり表われている。このため、二酸化炭素など温室効果ガス(GHG)の削減は最も重要なテーマの一つだ。ドイツのエネルギー研究所アゴラ・エネルギーヴェンデ(AE)は1月3日、「産業界の生産量の低下などにより、2023年のGHG排出量が前年比で約10%減った」と発表した。
 AEによると、22年には7億4600万トンだったGHG排出量は、23年には7300万トン減って、6億7300万トンになった。これは過去70年間で最も低い量だ。GHG排出量は、90年比で46%減ったことになる。
 7300万トンのうち、63%は火力発電所などエネルギー部門での削減だった。23年に発電のために使われた石炭の量は前年比で31%、褐炭消費量は25%も減った。ドイツ政府が再エネの拡大政策を始めた2000年には発電量に石炭・褐炭火力が占める比率は約51%だったが、23年には25%に減った。
 AEは石炭・褐炭消費量が減った理由として、景気悪化や企業の節約措置により23年の電力消費量が前年比で約4%減ったことや、昨年4月にドイツで原子炉が停止されて以来、外国からの電力輸入量が増えたことを挙げている。外国から輸入された電力の約半分が再エネ、約25%が原子力由来だった。
 もう一つの理由は、23年に再エネ発電量が前年比で5%増えたことだ。発電量に再エネ電力が占める比率は、22年の44.5%から8.1ポイント増えて52.6%になった。再エネ比率が50%を超えたのは初めて。
 GHG削減には産業界も大きく貢献した。23年の産業界からのGHG排出量は前年比で2000万トン減って1億4400万トンになった(12%の削減)。AEは大幅削減の理由として、「景気後退の影響で産業界の生産量が前年比で0.4%減った。特にエネルギーを大量に消費する業種の生産量が11%減ったことがGHG削減につながった」と説明している。インフレによる原材料高騰で需要が低下したことや、不動産不況でセメントや鉄鋼への需要が減ったことが大きく影響した。連邦統計局によると、ドイツの23年の実質GDP成長率はマイナス0.3%となり、G7諸国の中で最低となった。
 つまり、昨年産業界がGHG排出量を大幅に減らせたのは、景気悪化という一時的な要因によるものであり、グリーン水素の導入など生産プロセスの脱炭素化などの長期的な要因によるものではない。ドイツが45年にGHG排出量実質ゼロを達成できるかどうかは、未知数だ。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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