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ドイツとイスラエルのジレンマ(下)

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 ガザ戦争でのパレスチナ市民の死傷者数の増大により、ドイツ政府の態度に変化が生じつつある。国際社会の批判に押されて、ドイツ政府もイスラエル政府に「民間人の犠牲者を減らさなくてはならない。避難民に対する人道的支援を増やすべきだ」と要求し始めた。
 ドイツのベアボック外務大臣は、当初ハマスのイスラエルに対する越境攻撃やロケット攻撃を強く糾弾し、「イスラエルの自衛権」を強調していた。だが、昨年12月以降、同外相がイスラエルを批判するケースが増えてきた。
 例えば、ベアボック氏は昨年12月5日に「あまりにも多くのパレスチナ人が命を落とした。いくらハマスがガザ地区の民間施設からイスラエルを攻撃しているといっても、イスラエルはガザ地区の人々の信じがたい苦境を和らげ、子どもたちをはじめとする市民を保護するという責任から免れることはできない」と述べた。これは、ベアボック氏のガザ戦争に関する発言の中で、最も強くイスラエルを批判した言葉である。
 さらに2月3日にベアボック氏は、イスラエルのガラント国防大臣が、「地上部隊による軍事作戦をガザ地区南部のラファにも拡大する」と発言したことについて、「ラファには多数の市民が避難している。イスラエルの国防大臣が述べたような軍事作戦のラファへの拡大は絶対に正当化できない」と批判し、人道支援を増やすための一時的な停戦を要求した。同氏は「ガザ戦争のこれまでの犠牲者の大半は、女性と子どもだ。自分の子どもが戦争に巻き込まれたと想像してみてほしい。ラファに避難している女性や子どもは、どこへ逃げればよいのか」と、強い言葉でイスラエルをけん制した。
 仮にイスラエルがハマスの軍事部門を壊滅させても、ハマスの思想は生き残り、家族を失ったパレスチナ人はユダヤ人を憎む。あるハマス幹部は「3回でも4回でも10月7日のような事件を起こしてやる」と断言している。イスラエルがガザ地区を攻撃するだけで、これまでも続いてきた流血と憎しみの連鎖を断ち切れるとは思えない。
 ドイツはナチスの犯罪に対する反省から、本来人権を重視する国だ。中長期的に見れば、ドイツの知識人、財界人などは、イスラエルの軍事行動への無批判な支持と、ドイツの人権保護の思想をどう調和させるのかという難題に直面せざるを得ないと思う。だが、ガザの戦火がやんでいない今、ドイツ人たちがこのジレンマを解決するための作業は、まだ始まっていない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウント
https://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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