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3年目に入ったウクライナ戦争の行方

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 ロシアが2022年2月24日にウクライナに対する侵略戦争を開始してから丸2年がたった。ウクライナの民間人の死者は少なくとも1万人。ウクライナ軍の戦死者数は約3万1000人。これに対しロシア軍の戦死者数は10~30万人。世界銀行の推計によると、ウクライナの経済損害は4990億ドル(74兆8500億円、1ドル=150円換算)。ロシアは攻撃の手を緩めておらず、紛争解決の兆しは見えない。
 2月16日から18日までミュンヘンで開かれた安全保障会議(MSC)の議題の一つは、ウクライナ戦争だった。今年のMSCには冒頭から悪いニュースが二つ飛び込んできた。ロシアの民主改革を求めていた反体制活動家ナワリヌイ氏が北極圏の収容所で獄死したという報せと、ウクライナ軍がドネツク州のアウディーイウカをめぐる攻防戦でロシア軍の攻撃を支えきれなくなり撤退したというニュースだ。
 ウクライナは22年2月にロシア軍のキーウ攻略を防いだが、戦争は膠着状態に陥っている。昨年夏にウクライナ軍は反転攻勢によりクリミア半島の奪回を目指したが、ロシア軍の強固な防衛線に阻まれ攻勢は頓挫した。欧米の援助が滞っているために、ウクライナ軍は武器や弾薬などの不足に悩まされている。前線の兵士たちは、赤外線暗視装置や防寒具、応急手当キットなどを十分に国から支給されていないため、個人で購入したりボランティアから寄付を募ったりしているほどだ。MSCに参加したキーウのクリチュコ市長は「(西側諸国が)武器や弾薬の供与を増やさなければ、われわれはあと5~6カ月しかもたない」と悲観的な見方を明らかにした。
 キール世界経済研究所によると、欧米などが今年1月までにウクライナに供与した援助の総額は2524億ユーロ(40兆3840億円、1ユーロ=160円換算、以下同じ)に上る。そのうち、軍事援助は1075億ユーロ(17兆2000億円)に達するが、前線では物資不足が深刻化している。
 典型的な例が155ミリ砲弾だ。ウクライナ軍は1日約7000発の砲弾を消費する。このため昨年EUは、ゼレンスキー政権に対し「24年3月までに115万発の砲弾を供与する」と約束した。だが、EUが3月までに供与できる砲弾の数は約50万発にとどまる模様だ。EU諸国は東西冷戦の終結後、防衛予算を年々削減していたので、各国の兵器メーカーが生産量を増やすには時間がかかる。
 「万一米国が軍事援助を減らしたら、ウクライナは持ちこたえられるのか?」欧州には緊迫感が漂っている。
 (3月1日現在)
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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