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ドイツで原子力回帰論

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 ドイツは2011年の福島での事故をきっかけに、脱原子力政策を完遂した。だが、来年の総選挙で政権に就くと予想されている保守政党が原子力回帰の方針を打ち出し、再び議論が起きている。
 1月15日、ドイツの最大野党・キリスト教民主同盟(CDU)の執行部は、政策綱領案を採択した。同党は今年5月に開く党大会でこの文書を政策綱領として採択することを目指している。政策綱領は、来年秋に行われる連邦議会選挙のマニフェストの基本になる重要な文書だ。
 CDU執行部はエネルギー政策について、今のショルツ政権と違う方針を打ち出した。政策綱領案は「45年にカーボンニュートラルの達成を目指し、再生可能エネルギーによる発電設備を拡大する」とする一方で、「われわれは特定のエネルギー源を禁止する政策には反対だ。なるべく多種多様なエネルギーのオプションを用いるべきだ」と主張する。
 CDUは「そうしたオプションには、燃料電池、水素火力発電所、CO2排出量が少ない天然ガス火力発電所の他に、第4・第5世代の原子力発電所も含まれる」と明記した。第4・第5世代の原子力発電所とは、英仏が建設を予定している小型原子炉(SMR)などを指すものと思われる。さらにCDUは政策綱領案の中で、「われわれは核融合についての研究開発を推進し、核融合炉を世界で最初に実用化する」という目標を明記している。つまりCDUは、エネルギー問題においては、緑の党や社会民主党のように、特定のエネルギー源を排除または禁止する政策に反対している。
 今日のヨーロッパでは、「原子力ルネサンス」ともいうべき現象が起きている。追い風となったのは、ウクライナ戦争だ。ロシアが22年8月に海底パイプライン・ノルドストリーム1による西欧への天然ガス供給を止めたことにより、卸売市場での天然ガス価格と電力価格は過去最高の水準に高騰した。市民は「ガス代・電気代を払えなくなるのでは」という強い不安を抱いた。しかもEU加盟国は50年までにCO2排出量を実質ゼロにしなくてはならない。このため、ポーランドが33年に2基の原子炉を稼働させる他、英仏、チェコ、スウェーデン、フィンランドなども原子力がエネルギー・ミックスに占める比率を増やす方針を打ち出している。欧州で原子力発電をやめた国は少数派になりつつある。ドイツ人が福島事故直後に抱いた原子力への不安感も、時間の経過とともに薄れつつある。
 この国の人々は、原子力回帰への道を歩むのだろうか?
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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