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ドイツ首相の訪中は不発?(下)

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 ショルツ首相にとって、今回の訪中でもう一つの重要なテーマは、経済関係だった。彼は「中国は、ドイツそして欧州にとって経済的に重要なパートナーであり続けるべきだ。そのためには、競争条件をフェアなものにする必要がある。例えば、外国企業の中国市場への参入を容易にすること、知的財産権の保護、法的枠組みの整備などが必要だ」と語った。
 経済協議の焦点となったのが、再エネ発電設備の集中豪雨的な輸出だ。ショルツ氏は李強首相との会談で、中国から大量の安価な太陽光発電モジュールが欧州に輸出され、供給過剰状態になっていることを指摘し、中国政府の対応を求めた。中国の太陽光発電モジュールの流入によって欧州では価格が下落し、競争力が弱い欧州企業は苦しい立場に追い込まれている。例えば、欧州最大の太陽光発電モジュールのメーカーだったスイスのマイヤー・バーガー社は2024年3月14日、中国製品による供給過剰状態を理由に、欧州での生産量を減らして、米国での生産量を増やすことを発表した。
 また、欧州委員会は、中国が輸出する電気自動車(EV)の価格が政府の補助金によって不当に低くされているかどうかについても、現在調査を進めている。欧州委員会の調査の結果が「クロ」となれば、中国で生産されて欧州に輸出されるEVについて、EUが制裁関税を科す可能性もある。
 欧州委員会の強硬な姿勢は、ドイツには頭痛の種だ。同国の自動車業界は、フランスやイタリアなどに比べて中国で多くの自動車を生産・販売している。このため、EUが中国のEVに制裁関税を科した場合、ドイツの自動車業界が中国政府から報復措置を受ける危険がある。このため、ドイツ政府は、EUによる中国のEVに対する関税の適用など、保護主義的な措置に反対している。
 中国製品の供給過剰についてのショルツ氏の指摘に対し李強首相は「需要を上回る量の製品を輸出する国は中国以外にもある。豊富な供給は競争を加速する。この問題は、市場が解決するだろう。ドイツと中国は協力して自由貿易とグローバル化を促進し、保護主義的な政策と戦うべきだ」と述べた。
 つまり、中国政府は自国の太陽光発電モジュールやEVのメーカーに対して、欧州への輸出量を減らすよう指示する気はない。人件費が中国よりも高いために製品価格を下げられない欧州企業は、引き続き苦戦を強いられる。この点でも、ショルツ氏の訪中が、大きな成果を挙げたということはできない。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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