配電容量が足りない!
ドイツは停電時間が世界で最も短い国の一つ。電力供給が安定した国だ。だが、最近ある町で、変わった事件が起きた。
4月10日、ベルリン近郊のオラニエンブルクの地域電力会社(シュタットヴェルケ)は、「配電系統・変電設備の容量不足のために、新規接続を停止した」と発表した。同社は2023年に配電会社に対し、人口の急激な増加に対応して配電系統や変電設備を増設するよう要請した。しかし、建設工事が遅れたために、顧客からの新規接続を停止した。つまり、市民が新しい家に入居したり商店主が新しい店を開こうとしても、電気が通じない状態になったのだ。
シュタットヴェルケは「配電系統が不安定化することを防ぐために、ヒートポンプ、EV充電器、新築された民家、新しい商業施設、製造設備など全ての新規の接続申し込みを受け付けないことにした」と説明した。電力需要が急激に高まった理由は、オラニエンブルクと周辺地域での人口の急激な増加とヒートポンプの設置数の急増だ。新しい配電系統・変電設備が完成するのは26年になる。
オラニエンブルクはベルリンの北西36キロメートルに位置する。近距離鉄道と高速道路があり、ベルリンへの交通の便が良い通勤圏内にある。ベルリンでは家賃が高いことから、多くの市民がオラニエンブルクに住み、ベルリンの職場に通勤している。同市の人口は2000年には3万人、11年には4万1000人だったが、23年8月には4万7700人に増加した。今年末までには人口が5万人を超える見込みだ。
地域電力会社から通報を受けた連邦系統規制庁は4月17日に声明を発表し、「オラニエンブルクの新規接続停止は受け入れがたい事態だ。人口が急増している地域で、シュタットヴェルケの配電系統・変電設備の新設が何年も遅れたことが原因だ。同市の例は、地域の将来を見越した系統建設計画を立てることの重要性をはっきり示している」と批判した。
系統規制庁はシュタットヴェルケと配電会社に対して、「一時的に臨時の蓄電設備や発電設備を設置することによって、現在の状態を一刻も早く改善するべきだ」と要請した。連邦経済気候保護省のミヒャエル・ケルナー次官は「このような事態がドイツで起きたのは、他に聞いたことがない。変電設備が26年に完成するのでは遅過ぎる。オラニエンブルク市当局の計画ミスではないか」と語った。新居に引っ越しても電気がつながらないのでは生活ができない。先進国ドイツらしからぬ不祥事だ。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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