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新ヨーロッパ通信

ドイツ・学力低下ショック

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 昨年12月5日、ドイツ人の教育関係者や親たちをドキリとさせる調査結果が発表された。経済開発協力機構(OECD)が定期的に行っている、各国の生徒の学習到達度調査(PISA)の結果である。OECDは加盟国を中心として、15歳の生徒の学力を3~4年ごとに比較する調査を行っている。今回発表されたのは22年の調査結果だった。なんとドイツの生徒たちの読解力、自然科学、数学における「成績」は、同国でのPISAテストの中で過去最悪だった。
 例えば、数学のドイツの得点は475点で25位。前回の18年の得点に比べて25点も下がった。これに対し日本の得点は536点で5位。ドイツに水を開けた。ドイツの読解力の得点は480点で22位(日本は516点で3位)、ドイツの自然科学の得点は492点で22位(日本は547点で2位)だった。OECD加盟国の中では日本が首位だった。
 ちなみに、全ての分野でトップに輝いたのはシンガポールだった。上位は、韓国、香港、台湾などアジアの国が占めている。ドイツでは、知識をきちんと身につけていない生徒の比率が18年の調査以来上昇しており、数学では生徒の30%、読解力では26%、自然科学では23%が「学習達成度が特に低い」と判定された。
 この結果についてドイツのメディアは「PISAショック」という言葉を使ってセンセーショナルに報じた。ミュンヘンのifo経済研究所のルドガー・ヴェスマン氏は「ドイツの教育は危機的な状況にある。教育水準の低下は経済立地ドイツにとって脅威だ。若者が後に職業人として高い生産性を発揮できるかどうかは学校教育によって大きく左右される」と述べ、教育制度の改善を求めた。ドイツの成績の低さの理由についてはいくつかの説がある。20年のコロナ・パンデミックの際にドイツ政府は学校を休校にした。この国では授業のオンライン化が遅れており、多くの子どもがコロナ禍の時にきちんと勉強できなかった。その影響が尾を引いているという説がある。
 さらに、ドイツでは生徒の中に外国からの移民が増えているが、多くの移民の家庭ではドイツ語ではなく母国語が話されている。このため、生徒が学校でドイツ語の授業についていけないという説。移民が多いフランスの順位は、ドイツよりも低い。しかし、やはり移民が多い英国の順位は独仏よりも高いので、「移民のせいだ」という説も説得力に欠ける。
 いずれにしても、ドイツの教育関係者や親たちが、何らかの対策を取らなくてはならないことだけは確かだ。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

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