物づくり大国ドイツの危機③
ドイツが陥っているのは、インフレと景気後退が同時に起こるスタグフレーションだ。実際、経済指標を見ると、そのことを示す警告信号があちこちに灯っている。
連邦統計局によると、2020年の個人消費は、コロナ・パンデミックのために前年比で5.9%減った。個人消費は21年には1.5%、22年には3.9%増え回復傾向を示した。だが、23年にはインフレに恐れをなした市民が財布のひもをきつく締めたために0.8%減った。ドイツ自動車工業会(VDA)によると、23年12月の同国での新車の登録台数は、前年比で23%も減って24万1900台になった。政府による消費は1.7%、設備投資は0.3%、建設投資も2.1%減少した。
製造業はドイツで最も重要な業種の一つだ。ドイツ連邦統計局によると、21年にドイツで生み出された粗付加価値(生産過程で生み出された付加価値の合計。一国の総生産額から半製品や原材料・燃料などの費用や税金を差し引いた額)のうち、26.6%が製造業によって生み出された。この値は、フランス(16.8%)や英国(17.7%)、米国(18.4%)などを大きく上回る。つまり、ドイツでは製造業が演じる役割が英米仏よりも大きいのだ。ちなみに、日本の20年の粗付加価値のうち、製造業が生み出した比率は29%だった。つまり、ドイツの産業構造は、日本に比較的似ている。
連邦統計局の発表によると、23年のドイツの製造業界の生産額は、前年比で1.5%減少した。特に減少幅が大きかったのがエネルギーを大量に使う業界で、前年比で10.2%減った。そのうち最も生産額が減ったのが化学業界で、マイナス10.6%の減少率を記録。化学業界の23年の生産額は、1995年と同じ水準に落ち込んだ。また、ガラス製造業や窯業でも、生産額が14.1%減った。これらの業種で生産額が二桁の下落を見せた理由は、22年から続く天然ガス・電力価格の上昇の影響で、生産量を減らしたり停止したりする企業が多かったためだ。多くの経営者が「エネルギー費用が高くて、物を作っても十分な収益を得られない」と考えたのだ。
24年にはドイツの経済界・論壇で、「経済の屋台骨である製造業界が衰退の危機にさらされているのではないか」という意見も聞かれるようになった。その兆候はいくつかある。例えば、ドイツのGDPに製造業が占める比率はEUでは上位にあるものの、減る傾向にある。ドイツのGDPに製造業が占める比率は17年には22.6%だったが、22年には2.2ポイント減って20.4%になった。
(つづく)
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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