EU、環境重視路線を修正へ
今年6月6日から9日に行われた欧州議会選挙は、欧州の風向きが変わりつつあることを示した。2期目を務めるフォン・デア・ライエン委員長は、二酸化炭素削減を最重視する路線を緩和し、経済強靭化に力を入れる。
保守中道政党が構成する欧州人民党(EPP)は議席を2019年の選挙での179から188に増やし首位を守った。この会派はEU統合に前向きなドイツのキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)などが属する会派だ。
ただし、EU懐疑派も議席数を増やした。フランスの国民連合(RN)などが構成する極右会派「アイデンティティと民主主義(ID)」(「欧州のための愛国者たち」に改称)が議席数を49から84に増やした。ポーランドの右派ポピュリスト政党・法と正義(PiS)などが加わっている「欧州保守改革グループ(ECR)」も議席数を69から78に増やした。右寄りのEU懐疑派の中心であるこれらの2会派の議席数を合わせると162に達する。
一方、リベラル勢力は大敗を喫した。フランスのマクロン大統領が属する「再生」(旧・共和国前進)などの会派・欧州刷新(RE)の議席数は98から77に減った。環境保護勢力の会派「緑の党・欧州自由連盟(Greens/EFA)」も議席数を70から53に大きく減らした。
この選挙結果は欧州の有権者たちの「環境保護だけではなく、経済競争力と安全保障の強化も重視するべきだ」という要求を反映している。欧州ではウクライナ戦争の長期化、景気停滞、米国や中国に対する競争力の低下、脱炭素化がもたらす産業構造の転換などによって市民の不安感が強まっている。19年の欧州議会選挙では地球温暖化と気候変動が政局のトップテーマだったが、エコロジー・ブームも当時に比べると下火になった。
「環境保護政策の過度の重視はごめんだ」という市民の反応が最もはっきり表れたのがドイツだ。保守政党CDU・CSUが得票率を前回の28.9%から30.0%に増やした。極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)は得票率を11.0%から15.9%に4.9ポイント増やした。
逆にショルツ政権を構成する全ての与党が得票率を減らした。社会民主党(SPD)の得票率は15.8%から13.9%、緑の党は20.5%から11.9%、自由民主党(FDP)は5.4%から5.2%に減った。ドイツでも連立与党の環境保護最優先の政策が市民によって拒絶されたのだ。
「環境保護よりも経済的な安心感を」という有権者の意向が、今後も欧州政局を大きく変化させていくことは間違いない。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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