北海道と気候変動
今年6月に、講演のために札幌を訪れた。複数の知人が「これまでエアコンはいらなかったのだが、夏の暑さが厳しくなってきたのでエアコンを設置した」と語った。確かに近年、北海道では夏の気温が例年に比べて高くなる傾向がある。札幌管区気象台によると、2023年夏(6~8月)の北海道の平均気温は、1946年の統計開始以来、最も高かった。札幌で昨年8月に観測された36.3度という気温は、これまでで最も高い気温である。札幌、旭川、根室など、定点観測が行われている7都市での23年夏の平均気温は、夏の気温の基準値に比べて3.17度高かった。
これは、私が住んでいるドイツのミュンヘンと似た現象である。この国でも、毎月のように平均気温が過去最高を記録している。1990年代には、夏でも気温が30度を超える日は数えるほどだったので、エアコンはいらなかった。ドイツではエアコンを設置している民家やマンションはほとんどない。ところが最近では、8月になると気温が30度を超える日が何日も続く。自宅で仕事をしていると、「エアコンが欲しい」と思う日がある。
北海道の海の幸には、気候変動の影響がはっきり表われている。札幌の知人が「最近では函館でイカの漁獲量が減っているんですよ」と言った。函館市の7月8日の発表によると、今年6月の函館でのスルメイカの市場取扱量は19トンで、過去最低だった。これまで最も少なかった21年の26トンから約27%の減少だ。
函館市の調べによると、23年のスルメイカの取扱量は317トンだった。これは08年の8924トンに比べて96.4%の減少である。1キログラムの価格も約6倍に上昇した。
函館市は、不漁の原因は地球温暖化によって海水の温度が上昇したことではないかと推測している。逆に漁獲量が増えているのが、暖かい海水を好むブリだ。知床半島の羅臼町では、23年のブリの漁獲量が前年の約2倍に増えて1314トンになった。北海道の知人は、「昔、北海道では、ブリが食卓に上がることはめったになかったんですがね」と語っていた。
私は53年前に初めて函館に行った時に、北海道のイカの刺身のおいしさを知った。細切りにした肉に歯応えがあり、いくらでも食べられた。だが、気候変動のために、函館のスルメイカは貴重品になりつつある。
漁民にとって、海水温度の上昇による不漁は深刻な問題である。地球温暖化の影響は意外な所に現われ、人々の生活を脅かす。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92