VWが大リストラを発表
9月2日に欧州最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)グループが発表した声明は、同社の従業員だけではなく、ドイツの政界、経済界にも強い衝撃を与えた。同社は「自動車産業をめぐる環境が激変した」として、昨年から続けていた経費削減策を強化し、「国内の一部の工場の閉鎖や従業員解雇も辞さない」という態度を打ち出した。VWが過去に国内工場を閉鎖したことは一度もない。同社は2029年まで続く予定だった「解雇禁止協定」を解消した。ドイツのVW社員は、事業所評議会(企業内組合)が1994年に経営側と結んだこの協定によって解雇から守られていたが、経営側は一方的にこの合意を破棄した。
9月4日にVWのオリバー・ブルーメ社長は、ヴォルフスブルクの本社工場で従業員たちに対し「自動車産業は深刻な状況にある。われわれは今直ちに手を打たなくてはならない」と訴えた。同社のアルノ・アントリッツ財務担当取締役は「欧州の自動車市場では、コロナ禍前に年間約1600万台の自動車が売られていたが、今後は年間販売台数がこの数字よりも200万台少なくなる。VWでも販売台数が減る。ゴルフなど乗用車を生産・販売するVWグループの基幹部門で二つの工場が余分になる。基幹部門は以前から、売上高が費用などをカバーしていない」と述べ、ドイツで生産能力が過剰になっているという見方を打ち出した。
年次報告書によると、VW基幹部門の販売台数は2019年には約368万台だったが、23年には約302万台に減った。約18%の減少だ。つまり、VWはコロナ禍前の状態を回復していない。さらにアントリッツ氏は「これまでは中国からの収益が他の部門の赤字を相殺していた。だが、中国でのわが社のマーケットシェアが減っているため、中国からの黒字によって他の部門の赤字を帳消しにすることはできなくなった」と述べた。
VWグループが世界中で雇用している従業員数は約20万人で、そのうち約12万人がドイツで働いている。ヴォルフスブルクの本社工場では約6万人が雇用されている。VWは国内のどの工場を閉鎖し、従業員数を何人減らすのかについてはまだ発表していない。だが、組合側は、「工場閉鎖には断固反対する。VWの状況が悪化した原因は、経営陣が魅力的なBEV(電池だけを使う車)の開発に遅れたからだ」と強く反発している。
VWが価格競争力を回復して現在の危機から立ち直れるかどうかは、ドイツの製造業界の未来を占うテストケースになるかもしれない。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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