ページトップ

Column コラム

ホーム コラム 新ヨーロッパ通信 中東紛争拡大の懸念強まる
新ヨーロッパ通信

中東紛争拡大の懸念強まる

SHARE

Twitter

 2023年10月7日にハマスの戦闘員がイスラエルに侵入して約1000人の住民らを虐殺し、約200人を誘拐してから1年がたった。ガザ戦争に収束の気配はない。ハマスは今も約100人の人質をガザ地区のトンネルに監禁している。イスラエルはすでに1年以上、ガザ地区に猛攻撃を加え、パレスチナ市民約4万2000人を殺害した。
 「10月7日事件」は、ナチスによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)以来の強い衝撃をイスラエル人たちに与えた。パレスチナ人の女性、子どもらに犠牲者が出るのもかまわず爆撃を続けるイスラエル軍の姿には、「復讐」という言葉が思い浮かぶ。私は記者のはしくれとして42年前から戦場の動画や写真を見てきたが、今回のガザ戦争ほどむごたらしい映像を見たことは一度もない。ガザは文字通り地獄だ。市民を守る者は誰もいない。
 しかも戦火は、周辺地域に拡大している。10月7日以降、隣国レバノンのシーア派テロ組織ヒズボラは、ハマスを支援すべく、国境に近いイスラエルの町をロケット弾などで攻撃した。このためイスラエル政府は、レバノン国境に近い地域から6万人の市民を他の地域に避難させた。
 今年9月、ハマス幹部らが使っていたポケットベルや無線機が次々に爆発し、多数の負傷者を出した(ハマスが輸入したポケットベルなどに、イスラエルの諜報機関が爆薬を仕掛けたものと推定されている)。
 その直後、イスラエルはレバノンのヒズボラ幹部を狙った空爆を開始。9月28日には爆撃によってヒズボラの指導者ナスララ師を殺害した。他にもヒズボラの多数の幹部が死亡した。ヒズボラは、イスラエルと戦わせるために、イランが多額の資金と武器を供与している傀儡(かいらい)だ。イスラエル軍はレバノン南部にも侵攻し、ヒズボラの基地などを破壊している。国連軍兵士も負傷した。
 ナスララ師の殺害に報復するために、イランは10月2日、約180発の弾道ミサイルをイスラエルに向けて発射した。イランのイスラエル攻撃は今年4月に続いて2回目だ。イスラエルは防空ミサイル「アロー」によって大半のミサイルを空中で爆破したため、被害は少なかった。イスラエルは報復する方針を明らかにしているが、本稿を執筆している10月15日の時点では報復を実施していない。
 ガザ戦争は、イスラエルとイランの直接の対決という危険な事態に発展した。日本が原油の約90%を依存する中東地域は、火薬庫だ。一刻も早く戦火が止むことを祈る。
 (文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
 筆者Facebookアカウントhttps://www.facebook.com/toru.kumagai.92

SHARE

Twitter
新着コラム