ドイツ自動車部品業界の悲哀
フォルクスワーゲンの苦境についてはこの欄ですでにお伝えしたが、電気自動車(EV)導入による市場変化と不況の影響で、ドイツの自動車部品業界も危機に陥っていた。大手メーカーが次々にリストラや人員削減を発表している。
ドイツのタイヤ製造・自動車部品大手コンチネンタルは8月5日、「来年オートモーティブ部門を分離する可能性について検討を始めた」と発表した。ブレーキ、センサーなどを生産するオートモーティブ部門は10万人を雇用し、2023年には203億ユーロ(3兆2480億円、1ユーロ=160円換算)の売上高を記録した。スピン・オフが実現すると、この部門は独立企業として株式市場に上場され、コンチネンタルは本業のタイヤ事業などに集中する。論壇では、「分離の理由は、オートモーティブ部門の収益率がタイヤ部門よりも低いため」と分析されている。経済日刊紙ハンデルスブラットは、「コンチネンタルは、これまで数十億ユーロを投資してオートモーティブ部門を拡充してきた。経営陣がこの部門の分離計画を公表したことは、過去の戦略の修正を意味する」と論評している。
自動車部品大手ZFは7月26日、「28年末までにドイツの従業員数を最高1万4000人減らす」と発表した。同国の従業員数5万4000人のほぼ4人に1人にあたる。クライン社長は「状況は深刻だ。会社の将来を考えて、今行動しなくてはならない」と述べ、早期退職勧奨だけでなく、解雇の可能性も示唆した。
ドイツの論壇では人員削減の理由として、モビリティー転換が指摘されている。まず、EVシフトの影響で、内燃機関の車の部品への需要が減少した。ZFは、EV需要の増加を見込んで多額の投資を行ったが、EVの売れ行きが低迷しているため、生産能力が過剰になった。
ドイツの報道機関や労働組合によると、ZF以外にも、ヘラ、ヴェバストなどの中小部品メーカーが合計約1万6000人の人員削減を検討している。ドイツの座席メーカー・レカロは7月30日に倒産した。企業コンサルタント・ホルバート社が自動車部品メーカーに対して実施したアンケートによると、回答企業の60%が「人員削減を計画している」と答えた。
自動車業界に詳しいハノーバー中規模企業高等専門学校のフランク・シュヴォーぺ講師は「自動車業界は、破壊的な変化を経験しつつある。将来性がない部門は分離されるか廃止される」という見通しを明らかにした。自動車不況のトンネルの出口は、いつ見えるのだろうか。
(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)
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